敵、敵、敵、敵……つまりいつも通り!
脅威は幾らも有ったし、実際死にかけた者が居た。
が、シェリー君の粉骨砕身の結果、子ども達は肉体的にも精神的にも健康そのもの、無事だ。
無傷で帰って来ることが出来た。
シェリー君に関しては要警戒だが、子ども達は家に帰って晩御飯を食べて眠って平穏な、何時も通りの今日を終えられる。
よくやった。誰一人として欠けずに戻って来る事が出来た。それはシェリー=モリアーティーにとっての勝利だ。
だが、それは一連の冒険譚を知っていればの話だ。『物語に興味を持てば』の話だ。
物語は起承転結の点が結ばれて線を描くからこそ話を紡ぎ、意味を語る。
もし全てを見ずに終えたのなら、欠けが生まれ、歪んだ線を描き、話は解れて、意味を騙る。
「君は一体なんて事をしてくれたんだよ?」
先頭を切ってシェリー君に迫る男の言。文字だけを見れば怒りの表情か、渋い表情をしていそうなものだ。しかし、村人に見られていないのを良い事にその顔は満面の笑みだった。
己が勇気ある若者であるという主張。己が正義であると人に知らしめるパフォーマンス。己は外から現れた害悪を懲らしめているという自負。正義感という快感がそう動かす。
本質は私と同じ他人に害をもたらす意志。しかし本人に自覚は無い。
悪党は悪人を自覚し、その上で偽りの善人の皮を被る。偽善者は無自覚に悪人であり、その上で善人だと主張する。自分は臓物から表皮まで全て悪人と同質のものであるというのに、それを『善人』と定義し、悪人と指摘する者の口に正義の鉄拳を喰らわせる。
この男は典型的な
「子ども達を親に無断で、強引に、危険な森へと連れていったことは到底許されるものではないだろう。
昨日の件があったと言うのに君は何にも考えていない。分かってるかい?君は取り返しのつかないとんでもない事をしたんだよ。」
その後ろには村の若者達が続き、その更に後ろに村人達が団塊となって立ち、村長の孫娘が少し離れるようにしてその様子を見ていた。
止めようとする者は誰も居ない。村長も、最初の歓迎会で話を聞いていた者も、孫娘も、先頭に立っていない若者達も、決して止めない。
先頭を切る若者の勢いに気圧された不甲斐無い者達、男の言い分に同調しているもののそれを口にはせずに周囲とひそひそと陰口を叩いている者、恐ろしい招かれざる客を睨みつける者、その様子をただただ傍観するだけで自分を第三者と思い込んでいる者、気に入らない奴が追い詰められて貶められて苦痛に顔を歪めている事に喜びを感じている者……………
この景色を知らなかった訳ではない。予想は出来た。
それでも、たとえ魔女狩りにあって磔にされ、火で炙られる事になる事が分かっていたとしても、同じ様に躊躇い無く森へと飛び込んでいた。
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