無事ではないが無欠で帰宅

 骨を折った。物理的にではないが、魔力体力精神力全てが非常に消耗。

 子ども達は無事だったから収支は±0?そんな事は無い。

 相も変わらず驚異の正体は判明していない。相手のヒントは得た。が、此方の手の内を暴かれた。

 向こうの質量と性能は氷山の一角とはいえ確認出来た。透明化、多脚、重量、衝撃に対して部分的に離脱する事、本体装甲が二重である事……。

 片や全容は解らずとも高性能。片や現状の底がある程度知れた小娘。

 これからこの森を避けて三か月を過ごすなら問題無いが、問題の根治ないしは問題の明確化をするのならアレは決して避けられない。

 それに………否、これは言う必要の無い事だ。シェリー君が心変わりをしない限り、つまりは確実に直ぐ直面する。


 「異常無し!」

 一人だけ1m先をふらふらと蛇行する様に進み、辺りを四方八方ぐるりと千鳥足で見回してこちらに敬礼をする。

 「大丈夫?肩貸す?」

 そう言って少しだけふらつくシェリー君に肩を貸そうとする。

 子供は大人の真似をするが、その意味まで的確に解ってやっていないので『肩を貸す』というよりは『杖になる』方が近い。

 「有難うございます。では少しだけ貸して下さいな」

 そう言って肩に手を軽く乗せる。嬉しさのあまり肩の手を乗せたままその場でピョンピョン跳ね回る。

 「お姉ちゃん、さっきからすこしへんです。

 風吹くとびっくりしてるみたいです。怖いです?お化けいないです。」

 風が吹き、木の葉が揺れる度に身構えるシェリー君。

 三人が居る事で過剰に不安状態になっているが、子ども達はそれ自体には気付いているが何が理由か気づいていない。

 さきの衝突未遂も不可視だった上に停止し、直ぐに去っていった故に子ども達は自分達の目の前に何かが居た事さえ知らないでいる。

 詳細をシェリー君は語らない。子どもは時に口にしてはいけない真実を口にする。

 見たものの本質を見抜いたとしても、それがどんな意味を持ち、もたらすかまでは知らない。

 今までぼんやりとしていた怪物が一人の身元不明の男によって完全に形を成した。

 その状況下でもう一つ。昨日の今日で特大の情報を叩き付ければどうなるか?未来予知が出来ずとも、目に見えるだろう?

 騒ぎ立て、半ば錯乱し、しかし何も有効打を持たない連中が。

 判断力を失った集団は倫理や法律を考える理性を失う。個人が僅かに持っていたとしても集団の狂騒の火はそれを塵芥に変える。

 無論手足の関節を外して冷静にする方法があるにはあるが、シェリー君はそれを望まない。




 「難しいですね。巧くいきません。

 教授や、ミス=フィアレディーの様に動じず冷静に粛々と行える力が羨ましく感じます。」

 「ハッハハハハハハハハ。当然だ。私やかの淑女は君より多くを知っている。

 現状を知らずとも、現状に部分的に似ている事象を知り、出会い、解決してきた経験がある。それらが武器になるのさ。

 今までに掴み取ってきた全てを有効に用いている。全てを有効に使う為に技量が同じであったとしても、経験の多い『全て』で勝る人間に軍配は上がる。

 何より私。そして、かの淑女が君と同じ土俵で戦っていてはそれこそ私達に立つ瀬が無くなってしまう。

 そうならない為に、懸命に知識を絞り、培った経験を活かし、創意工夫を凝らして今こうして羨望の眼差しを向けられる場所に必死に立って居る訳だ。

 『私の時間はここにこうして収束した』と自信と誇りを持って言える場所に……ね。」

 経年ではなく年功。若者の煌めく刃相手に我々も刃を鍛えているのさ。己と相手に胸を張れるように。

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