遠回りする私たち
木の葉がざわざわと動き、不規則なステップの後に不可視の刺突が遅れる様に地面を穿つ。
全力疾走する関係で布端の揺らぎを視認してから躱すという動きが出来ない以上、防御を捨てて魔法を行使した状態である程度持続可能な最速を維持して動き続ける。
平面的な動きと見せかけ時に跳躍、幹を蹴って枝を掴み、軽業師の如く駆ける。ある時は真っ直ぐ進んだと思えば次の瞬間には急停止して今まさに穴が開いた場所へ逆戻り。弧を描くように曲がって走ったと思えば今度はまた木の幹や枝を駆使したアクロバット。
しかし追手は決して撒けない。相も変わらず見えない刺突を続けて追ってくる。
敢えて消耗する真似をしてこんなことをして何の意味もない?否、そんな事はない。
それを見て、シェリー君は確信に至った。
今度は真っ直ぐ最速で迷いなく走っていく。
「プロペラや高熱ガスの噴出によって空を飛んでいるのであればそれなりの音は免れません。なによりそれはこの森との相性が悪過ぎます。火事のリスクや居場所の特定、最悪木々を吸い込んで墜落する可能性がありますからね。
かと言って気球や飛行船といった手法で移動するのであればこの低空をこれだけの速度と機動力で動き続けるのは困難。であれば空を飛んでいないという事になります。
であればどうやって足跡を残さず動き続けているのか?
森の中に差し込んでくる光、そして木の葉のざわめきがヒントでした。
この森は強い風が無ければ光がまともに差し込む事もありません。しかし追跡されてから木の葉の揺らぐ音が刺突の分を差し引いても異常に印象に残っていますし、木漏れ日を見ています。
ありますよね?足跡無くこの辺り一帯を動く方法。」
シェリー君が全力疾走の末に辿り着いたのは、ユグドラシルと呼ばれていた大樹のある場所。
広場に辿り着くと同時に振り返って急停止。慣性はそのままシェリー君を
元の場所へと戻ってきていた。
「木の頑丈な枝や幹を、先程私が破壊したような複数のアームで掴み、重量を分散して森の上を節足動物のように動き回っていた、違いますか?
だからアームの差し込まれた部分の木の葉が押し退けられて木漏れ日を作り、木の葉のざわめきを作っていた。
間違っていますかね?」
相手は答えない。しかし、先程まで盛んに地面に穴を開けていた刺突が止んだ。
暫しの沈黙。先程広場に飛び出してきた森の方を凝視するが動きはない。
正解を告げる足跡が目の前の地面に何の予兆もなく現れた
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