虎と武器と馬車と

 今回の件、以後『校外課題』と称する事にしよう。

 校外課題の当日朝。学園前は大混雑となっていた。

 早朝から意匠を凝らした露骨に『貴人用』と主張する派手な新品馬車が渋滞。学園の門前に蛇の様に並んでいた。

 無論これらが何かと言えばこの学園から各町村に向かう馬車。この学園の令嬢達が乗る為の馬車に決まっている。

 当然、これらは各令嬢の家から派遣された馬車。この学び舎の前…はどうでもいいが、かの淑女の前で堂々とこの様な行為をする事は一般人からすれば半ば自殺行為に思える。

 が、ここに居るのは腐っても貴族の娘。狡猾さとロクでもなさと財力・・においてはある程度の能力を持っている。


 「『会長・・』、お迎えに上がりました。」

 「ご苦労様。では、参りましょう。」

 門前で待っていた令嬢が一人、馬車の中に消えていく。


 「『会長・・』、お迎えに上がりました。」

 「ご苦労様。では、参りましょう。」

 門前で待っていた令嬢が一人、馬車の中に消えていく。


 「『会長・・』、お迎えに上がりました。」

 「ご苦労様。では、参りましょう。」

 門前で待っていた令嬢が一人、馬車の中に消えていく。


 大声で強調して『会長』と御者が周りに主張する。


 Q.家の力借りてはいけない。その場合如何すればいいか?

 A.新たに自分名義で商会を作れば良いではありませんか。

 Q.何処のクイーン・ギロチンかね?

 ああ、郊外課題の説明会で出た質問、『自身の商会の力は使っても良い』。これは課題の性質上禁止する訳にはいかない。

 そして、貴族の令嬢ならばこの短期間に手を回して自分名義の商会の一つや二つを作る事くらい造作も無い。

 「あーあーあー、全くもってとんだ会長行列。

 課題に商会一つを立ち上げるとは発想が完全に選ばれた貴族様だね。」

 窓の外の行列を見て呆れている。

 そして、シェリー君はと言えば勉強勉強相も変わらず机に向かって勉学に励んでいた。

 

 Q.『シェリー=モリアーティーの派遣先が学園から近いの?

 A.荷物込みの徒歩で計算すると不眠不休で36時間24分33秒。

 Q.『手紙で指示して貢献するつもりですか?』

 A.能力的に不可能ではないが、今回の採点基準は『淑女としての意志』・『貢献』の二つが大きなファクター。この場合『貢献』は問題無いが『淑女としての意志』は蔑ろも良いところだ。

 Q.あきらめちゃったの?

 A.愚問ここに極まれり。そんな訳が無いだろう?既に部屋には一まとめにされた荷物がスタンバイしてある。更にシェリー君の服装も外出着だ。待っているといい。



 「お待たせしたね!」「俺達はよぉ…!」「モラン商会速達馬車でさぁ!」

 太陽が昇り切った後、馬車の行列が無くなった後で虎が現れた。

 失敬、獰猛な虎と武器を具象化した紋章を掲げた馬車が現れた。

 『モラン』。この言葉に意味は無い筈だ。が、私はここに『猛獣をも殺す恐るべき強者』という意味を見出す。

 仕事の依頼を確実にこなすモラン商会は遅れてやって来た。



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