内部事情に詳しい人間が攻め込むと大概詰む


 そうして、見た人間がその情報量で辟易し、その狂気じみた綿密さに寒気を感じるほどの計画が実行された当日。

 丁度盗賊団が警備官達を相手に大立ち回りをしている時、サイクズル商会を囲んでいた警備官達も動いた。

 「警備局だ。商会長と幹部に逮捕状が出ている。

 従業員及び関係者、足の裏を地面に付けて動かさず、手は頭の上に固定な。

 少しでも動いたらその段階でお前らもブタ箱だ。

 客の人も少しだけその場を動かないで下さーい。」

 標準装備制服の警備官・私服で変装した警備官・モラン商会の副会長・同商会新人の総勢55名。

 制服の警備官が突入する前、既に至福の人間を客に紛れて関係者の周囲に潜ませてある

。もし、静止の勧告を無視して、少しでも動いた瞬間に制圧出来る様に。


 店の構造は建物の正面中央に三人が並んで入れる入り口。店頭にも幾つか商品が並び、入口近辺には案内兼万引きの抑止力として最低でも一人が在中している。

 建物の中は木箱や樽、ガラスケースで店の中は区切られているものの、数十人が広々と買い物が出来る程度の広さがある。

 店の奥には従業員専用口とそこを遮る様にカウンターが有り、カウンター下には強盗制圧用の魔道具が幾つも置いてある。

 従業員専用口からは上階に上がる従業員・VIP用の階段があり、裏の他の建物に囲まれた中庭に出られる様に勝手口もある。

 そして、裏庭を真っすぐ突っ切ると商会所有の別棟、従業員用の三階建て石造りのボロ家があり、無論それを知っている人間はそこを通り抜けて裏側の通りに出る事が出来る。


 「お客様、一体何が…」

 忠告を無視して混乱した従業員が一人、入り口側の居る警備官に向かってくるが、手慣れた警備官が腕を捩じり上げて地面に腹這いになる様に叩き付けて瞬く間に制圧。手錠をかける。

 「動くなと言った筈だ。」

 それを見た客と従業員はこれが冗談やチンピラの仕業で無いと分かり、騒ぎ出した。

 対する警備官達は淡々と入り口を固め、同じ意匠の服を着た従業員を冷静に制圧していく。

 従業員側も長年勤務しているであろう腕に他従業員と違う腕章を付けた者達は然程驚きもせず、自然に何事も無いかのように懐に手を伸ばして「おっと動くな。」

 警備官達に警戒し、対応しようとした従業員達の後ろから私服警備官が隙を付いてモラン商会謹製制圧魔道具を使って気絶させた。

 カウンターに手を伸ばそうとした従業員は直線で店を突っ切った警備官に武器と一緒に押さえられた。

 そして……


 「急げ。」

 嫌な予感を感じ取った勘の良い数人の従業員は中庭を突っ切って別棟に急いでいた。

 会長のやっている事を知っているその数人は最初の段階で既に危険を察知して逃げ出していた。

 ボロ家のドアを開け、家の中を突っ切って裏の通りに続くドアを開けて……

 「やぁどうも、警備官です。

 では、逮捕。」

 分厚い刃の剣で首筋を撫でられ、数人まとめてお縄となった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る