骨を折る(物理)

 今更だが、この状況に追い込んだ会長は俺の命を軽んじているのだろうか?と考える。

 改めて『一人一晩で大量壊滅する怪物を相手にしてこちらの要求を呑ませろ』というのは無茶振りが過ぎて理不尽で泣けてくる。


 「そういえば、ボンノー隊長さんには、奥さんと娘さんが居るらしいですね。」

 明確な殺意。

 「俺の家族に手を出した奴は遺言も命乞いも抵抗もさせずに殺すって分かってそれを言ってるならこの場で殺してやる。」

 『豹変』なんて言葉がある。一気に様子が変わるヤツの事を言うらしいが、これはそんな温いもんじゃない。

 さっきまで正義の味方さんを気取っていたヤツが一気に殺戮モンスターに変わるってのはどんな魔法だ?完全に別物だ別物。


 敷地の外まで追い返して帰す気満々だった先刻さっき

 地獄の底まで追い詰めて殺る気満々な今。


 これ、口開く事も許されなかったら俺、死ぬな。武器、持ってない。魔道具の類、そもそも持ち込めない。机や椅子を使うなんて手法はこれ・・相手に有効打にはならない。

 「今、我々の商会では遠方の商業ルートの開拓を行っていましてね。未だ開拓途中で数は仕入れられてないんですが、珍しい衣服や香水、化粧品の類を試験的に集めて調べたいと思っています。

 そして、もし調べるとなった場合は、自分達で使ってみるだけではどうしても評価が偏るので、テスターが居たら…………と思っていたのですよ。

 例えば、目映い程素敵な成人女性や、愛らしくて何を着ても似合う子どもを探しています。

 もし、テスターに協力してくださる方が居れば、市場に中々出回らない高品質の衣服や香水・化粧品をお譲りしたいのですがね?」

 殺意の最中で揺さぶりをかける。目の前の怪物がまたしても変身したと思えば、利き手を思いきり握られた。否、これは、マズイ!

 「HAHAHA.話を聞こうじゃないか副会長の……ジャリス君だったかな?

 僕に出来ることならば幾らでも協力させてくれ。」

 ボキボキボキボキボキャ

 手が痺れて痛い痛いいいいいいいいい折れる折れる折れるってか折れてるかもしれん!

 「協力はする。だが、『やれるならそれに越した事は無い。』って話だ。出来んだろうな?

 出来なきゃ手前を連中諸共死体にする。運が良ければブタ箱だ。いいな?

 具体策を提示してみろ。そして最優先だが、グレイトフル素晴らしい麗しの娘と妻達に贈る物を提示しろこれは直ぐだ。」

 ああ、利き手の指が折れた状態で俺は一体どうやって仕事をすれば良いのだろうか?



 モラン商会は警備官達と手を組む事に成功する。

 副会長は何故か手を骨折して、腱鞘炎だった事に医者に言われて気が付いた。


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