コズマ=ボンノーの伝説 14章

 《翌日》

 裏社会はと言えば、天を地にした様な大騒ぎだった。

 昨日まで全盛期と言わんばかりの勢いだった組織が幾つも壊滅し、抗争寸前の対立組織が騒動を経て同盟を結ぶにまで至り、幾つかの組織は警備官達の強制捜査で捕まり、幾つかの組織に至っては組織単位で足を完全に洗って堅気になるものまで在った。

 たった一人の男がしでかした愚行を引き金にして勢力図は完全に変わった。

 勢力図マニア達は一夜明け、勢力図を描こうとして変わり続けている状況を見て、『あっ、これ明日にはまた勢力図描き替えないとダメな奴だ……』と確信して当分の間筆と紙を置く事を決めた。


 「ひっくり返ったな。」

 「大混乱ね。」

 「大恐慌状態です。」

 「ヤベェな。」


 水晶の前で四人が頭を抱えている。

 暴れている怪物『子煩悩妻大好き』の正体が割れた段階で犯人を特定後の行動は取り敢えず決まり、それが巧くいかない時は組織の最大戦力で対象を殺す事になっていた。

 そして、最悪の事態は逃れたものの、最悪に近い状態まで裏の世界は混乱と混沌を極めていた。

 「大小合わせて25の組織の壊滅。

 が、今の所連中警備官と戦争をおっぱじめる連中は居ないみたいだな。」

 「皆もちゃんと口止めは出来てる?」

 「当然です。万一身元が割れて御礼参り等やられては困りますからね。

 あぁ、勿論情報操作は既に行っていますのでご安心を。」

 「ま、つってもバレてんだろ。やられた奴らは見てる。ソイツらどうすんだ?バレんだろ。」

 問題はそこだ。喧嘩をして終わりなのは不良破落戸の類。

 俺達は喧嘩をして、その後を考えないとならない。

 今回、犯人は警備官。俺達は連中と敵対関係で、ここまでやられたら俺達は絶対に許さない。

 これが向こうの外道や非道が引き金だったな止めやしない。が、今回引き金を引いたのは此方側。しかもあろう事か女子どもに手を出しやがった。こっちには仁義道理は無い。報復なんざお門違い。この無様を許した挙句、更にそれを許せば俺達は生きるに値しなくなる。

 「見守るしか無いじゃない。」

 「……監視時の物件やマニュアルを手配しておきましょう。」

 「やりそうな連中には前もって釘を刺しとくぞ。」

 「そういう事で、頼む。」

 水晶の光が消える。一人になった部屋で頭を抱える。

 たった一人の小僧に半分ぶち壊された裏社会にじゃない。

 堅気に手を出す愚行バカを許した事だ。不甲斐無い。

 自分の愛する女に手を出された事がどれだけ辛かったか、死ぬかもしれないと考えた時にどれだけ怖かったか。分かるまい。

 本当に無念だ。部下が居なけりゃ犯人のドタマ勝ち割って、ソイツを引き摺って俺も頭を、下げたかった。


 こうして、コズマ=ボンノーの家族の周りには裏社会の人間が人知れずにうろつく事になった。

 万が一の外道共が決して危害を加えない様にするために。

 怪物が怪物になることを止めるために。

 仁義を通すために。


 この件で街に二つ変わったことがある。

 街の裏連中が例外無く女子どもに対して優しくなったこと。

 それをしない連中に対しては容赦が無くなったこと。




最後に一つだけ、間違えた事がある。

 組織が25個壊滅したとあったが、実際は26個である。

 最後、壊滅させていた組織、奴隷売買の組織の長は叩き潰され、逃げ出した奴隷が警備官の元へ駆け込みお縄。

 結局、警備官が壊滅させたということになったが、彼らが組織に突入した時には、既に、壊滅していた。




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