コズマ=ボンノーの伝説 1章

 『コズマ=ボンノー』

 この辺り一帯の治安維持を行っている警備官の一人。その中でも荒事対応に特化した警備官達を取りまとめる警備官隊の隊長。

 同じ警備官達からの人間的な評判が良く、警備官としての実績を幾つも積み重ねている為、信頼の置ける警備官という呼称がこれ以上無く似合うと言える。

 周辺地域の住民からも子煩悩なパパ、愛妻家として有名で、地域住民と繋がりが強く、一市民・警備官の両面で信頼が厚い。


 そんな訳で、有能で人柄も良いからこそ、一部の人間から嫉妬ややっかみ、始末すべき標的として狙われる。

 特に裏社会からの狙われ方は最早異様だった。

 他の警備官に目もくれず、昼夜問わずに物騒な刺客が送り込まれ続けた。

 そして、ボンノーは送り込まれた刺客手柄を元に更に名声を高めていった。

 彼の強みは人柄や人望は勿論だが、それ以前に警備官の隊長。弱い訳などない。

 そんなこんなで刺客が十数人、そこから芋づる式で壊滅した組織3つを見て、大半の裏社会の人間は手を引いた。


 『本人を潰せないなら家族を狙えば良いんじゃねぇのか?』

 そんな下衆を除いて。

 裏社会を揺るがし、未だに爪痕を残す大事件の発端になると知らずに、裏社会はそれを放置してしまった。

 そんなある日、事件は起きた。


 ボンノーが珍しく仕事を放って病院に行った。

 理由は簡単。買い物に行っていた妻が危うく馬車に轢かれそうになり、病院に担ぎ込まれたから。近隣住民が一連の事柄を目撃し、近くの警備官に知らせ、それがボンノーの耳に届いた……という経緯だ。

 『馬車に乗ってた奴は最近アンタの事をよく尾行つけていた破落戸だった!』という情報と共に、である。

 幸いボンノーの妻は周囲が騒いで病院に連れて行かれただけで大事はなく、その場は妻が周囲に謝り夫が謝り…と、穏便に収まった。

 問題はこの後だった。




 「おいおいおいおいおい。一体何を考えているっていうんだい、君?

 これじゃあ足りない。足りないんだよ、全然!」

 「言った筈よねぇ?『最近警備官共が工場を一つ潰しちゃってくれたせいで量が減る』って。」

 街外れの倉庫街。その中の一つ、とある倉庫で手入れのされていない机を挟んで二人の男が座っていた。

 机の上には麻袋が三つ、積み重なっていた。

 片や『行商人』と呼ばれる裏社会の流通を司る悪党。

 片や『農家』と呼ばれる数々の違法植物やそれを利用した精製品を作り出す外道。

 中身はつまり、そういうことだ。

 「中毒野郎共を増やしてるから何としてでも増やせって言っただろ?その後で!」

 「そんなこと言ったって、無理なものは無理よ。工場だけじゃなくて畑の方にも調査が入りそうなのよ。無茶言わないで!今回のコレだって掻き集めてきたんだからね?」

 今まさに、違法薬物の流通という許されない街への悪意が水面下で蠢いていた。

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