モラン商会は副会長に至るまで徹底教育されている。

 「で、えーっと…副会長さん……ですよね。説明して下さい。なんで私たちが逃がし屋って分かったんですか?」

 考えが無いのは知っていたが愕然とする。やっぱり知らずに間に入ってきやがっていた。

 「あぁ、先ずだ。殺し屋ってのはお前さんみたいに能天気で幸せな人種じゃねぇ。もっと陰険で陰湿で死んだ目してその癖ギラギラした連中しか居ねぇのよ。

 お前の事を殺し屋だと思う奴は先ずどっち側にも居ねぇよ。」

 どうしようもない真理だ。コイツが殺し屋だと自己紹介すると無言で俺を見て『なんの冗談だ?』と訴える奴が3割。無言で固まる奴が2割。舐められたとブチ切れて部下やら手下やらを突っ込ませる奴が3割。1割は大爆笑して、最後の1割はクソ真面目に深読みして納得する。

 荒事以外の7割は『殺し屋に見えないのが殺し屋としての素質なんです、凄いでしょう!』と説明すると納得したり脂汗を流して、荒事連中はキリキが素手で殴り飛ばして天井に刺さった連中を見せて納得させる。

 要は『殺し屋じゃない』という方面での見た目説得力が強過ぎる。


 「私、そんなに殺し屋に見えていないんですか⁉」

 「見えないッスね。」「ねぇな。」「キリキぃ、何度も言っただろう?お前が殺し屋にぃ見えることは一生無い…ってなぁ。」

 満場一致に項垂れるキリキ。

 「せっかく殺し屋っぽく見える様に一生懸命鍛えたのに。」

 「お前ぇ、それ筋トレだろうがぁ。

 そんなことはどうでもいいからさっさと次だ次。見た目だけで判断した訳じゃ無い筈だ。何かあるんだろぅ。」

 キリキの性質だけでそこまで辿り着くとは思っていない。もう一つ、何か決定的なものが有るはずだ。

 「あぁ、それに関しちゃお前達の得物だよ。

 そんなバカデカいハンマー持った殺し屋なんて目立ってリスクしかない。殺し屋の中には皆殺しにして仕事を成功させるって連中が居る事は知ってるが、そんな露骨に物騒なモン持った奴が不意打ち出来る訳も無い。正面から行ったら近付く前に逃げられる。しくじった時に逃げるのも難しい。

 短剣の方もそうだ。レンから聞いた。お前さん、解毒薬持ってなかったらしいな。

 毒使いがなんだって解毒薬を持ってないんだ?

 万一自分が食らったり殺すべきでない奴に当たった場合を考えて毒を使う奴は絶対に一つは隠し持ってる。レンが見つけられなかったって事はまぁ手元には無いんだろうな。

 つまりはだ。それ、致死性じゃねぇんだろ。食らっても大した事の無い、弱過ぎて解毒薬飲んだらソッチが毒になる様な……な。

 毒で足止めしてハンマーでぶっ飛ばす。コンビネーションとしちゃ間違っちゃない。だが、殺し屋のコンビネーションとしちゃぁ不自然だ。

 単体殺傷力が異常に低すぎる。なんで、逃がし屋じゃないかと思ったって訳だ。」

 「わぁ、凄い。副会長さん、物凄い頭良いんですね!」

 「………。」

 その通りだった。図星だった。

 キリキが大槌を持ってる理由。それはコイツがそもそも下手な武器を持たせると壊すから、相手が手加減出来ずにシャレにならなくなるから、頭を潰しちまったと言って逃がしの成功率を上げられるから。というものだ。

 俺の短剣は殺し屋相手だと相手に騒がれるから。

 毒で大人しくさせて、話を聞かせて、で、偽の死体の頭を潰して依頼人に報告。


 これだけ簡単に読まれるって事は、どっちにしろ潮時だった訳だ。



 「安心しろ。この辺はウチの会長様が考えて教えてくれたモンだ。

 お前さん達の仕事が他にバレてる様子は無ぇよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る