副会長と顔合わせと暴露

 「あ゛~内部の人間を引っ張って来たのか~………レン でか十二ぞ………」

 指一つどころか声を出すのさえ辛そうにしていた。絞り出した声も掠れて裏返っている。いったい何をしたらここまで弱るのか……見ての通りか……。

 声の主はモラン商会のナンバー2、ジャリス副会長。目の下は隈になり、髭は伸びきり、手はインクで真っ黒になっていた。偶に起きていると主張するように目を見開くが、その目は血走って虚空を見ていた。明らかに仕事のし過ぎで睡眠をしていない。

 この状況を見た感想としては、先ずこれからの仕事が不安であるという事と、彼は商人ではないということだ。


 イタバッサは長年商人をやってきた。器用で万能ではないものの、サイクズルから課された悟りが遠退く様な苦行経験は人を見る目を作り出すに至っていた。


 手にはインクの後はある。けれどペンを握ったときに出来る痕は薄い。長年商人をやっていたというより、最近ペンを握って出来たものだ。代わりに手の方は異常に傷だらけで太く発達している。

 体も事務仕事をしている人間のソレ・・ではない、鍛え抜かれた人間のソレ。

 そして、体を椅子に預けて無防備でいる様に見せかけて、利き手を部外者に向けず、何時でも懐に伸ばせるようにしていた。

 以前聞いた元騎士の人の話に出てきた荒事や襲撃を警戒する人間の動きそのものだ。



 「で、その……4……人は?」

 「あー、ジャリスさんしっかりして下さい。目ぇちゃんと見えてないッスよぉ!二人ッス二人、有能な殺し屋さん二人ッス。会長から貰ったアレ使って闘ったッスけど、高性能っッシタ。」

 「あーよかっ十ニなーって…殺し屋、殺し屋ぁ?」

 当然のように驚く副会長。

 「こんにちは!レンさんに誘われてきました。キリキと申しまぁす!昨日まで殺し屋をやってました。辞めて商人になります!力仕事は任せてくださぁい‼」

 呆れた副会長がジトリとした目をレンに向ける。

 「…………お前殺し屋だって思って誘ったのかよ………いー度胸だなぁオイ。」

 (随分とぉ、物騒な連中だなぁ……)

 キリキは裏社会の底辺をコソコソ生き延びてきた。

 強い者、危険な者、予想出来ない者………自分の命が懸かっていたからこそこれらの者に対して鋭敏に反応出来る。直感がソイツらを避ける。

 レンという男もそこそこ危険ではあったが、目の前の男はピリピリする。危険人物だ。

 「コイツら、殺し屋じゃなくて逃がし屋だぞ?」

 「ッ‼」「わぁ、凄い!なんで知ってるんですか⁉」「ッ!キリキ、馬鹿野郎ぅ!」

 コイツら、なんで俺達がそう・・だと知ってる!?

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