たった一つの百を超える一点物
「ぐぇぇ……何処にそんなモンを隠していた?どんな魔法使いやがったぁ?」
痛みを堪えて口元の血を拭いながら驚く
実の所ニタリは然程驚きはしなかった。
殺し屋稼業において驚きというのは致命的なミス、驚いた段階で不測の事態に対応しきれていない準備不足な間抜けの烙印を押される。そして烙印を押された殺し屋はもう死んでいる。
驚いたらそもそも体の動きが硬直するので死ぬ。
驚いたフリをした理由は相手の反応を探り、あわよくば調子に乗せてお喋りをしてくれれば……と期待してのものだった。
奇術師の用に何も無い手の中から物を出すなんて事はよくある話。殺し屋の得意分野と言っても過言ではない。ニタリの毒塗の短剣も靴、足首、太もも、腰、腹、胸、袖の中、襟首に隠されている。
何を驚く事があろうか?たとえ驚くべき事だったとしても、どんな精緻な仕掛けや複雑な魔法によるものでも関係無い。俺達は殺し屋。標的を殺せればそれでいい。強いて関係が有るものと言えば死人が蘇る仕掛けや魔法くらいだ。
いつも通り、俺のナイフを捌きにくればキリキの大槌でぶっ潰す、キリキの大槌を捌こうとしたら俺が毒ナイフで一突き。
棒術使いなら俺が懐に必死こいて間合いに入るよりもキリキとやり合わせたほうが良い。アイツはあの通り馬鹿正直で殺し屋には見えないし向いていない様に見えるが、死んでない殺し屋はそれだけで己の腕を証明している。十分に仕事は出来る。
相手は商人の割りに戦い慣れているようだが、殺し屋相手の戦いは破落戸や騎士様相手にするのとは毛色から違う。
奴らはある程度ダメージを許容しても戦う事が出来、最後に立って居た者が勝者。
対して
キリキの大槌は掠った程度でも肋骨は持っていくし、武器を合わせれば持っている腕ごと武器を砕く事が出来る。
俺の
両方とも確実に殺す為のもの。どちらかに注意してどちらかの対処を誤れば直ぐに殺せる。
棒術は間合いという強みはあるがキリキの大槌とまともに合わせれば折れる確信があった。
破壊を躊躇った瞬間に短剣で動きを止めて、狩る。
「手品ですか⁉いきなり棒が出て来たので吃驚です!」
大槌を振り回して上段から振り下ろす。
棒を喰らった時に確信していた。
キリキの大槌は毒や電気の仕掛けこそ無いが純粋に重い・硬い。
本来は大男が数人がかりで持ち上げ、純粋な重量だけで危険物扱いをされるそんな厄介な代物。
ただし、キリキの様にまともに振るう事が出来れば岩を難なく砕き、刀剣をガラス細工の様にへし折り、魔法までも打ち返す。
上からの一撃を食らえば棒がへし折られて頭をそのまま割られる。かと言って本人を狙っても大槌は避けられない。避けようとすれば俺が仕留める。
商人に死が迫る中で、奴は笑った。
「甘いッス。
手に持っていた棒が消え、男の右手には何時の間にか籠手が……ッ!
「え?なんで棒が消えて……」「キリキ避けろ!」
キリキは現状を正確に理解したものの、既に振り下ろしている大槌の勢いは止まらない。
苦し紛れに短剣を投擲するも遅い。大槌の頭とキリキの体の間に姿勢を低くして入り込んだ商人は既に一撃を入れていた。
「え゛……?」
右ストレートが腹に入り、キリキの手から大槌が離れて後ろに吹き飛んでいった。
「女子どもだからって容赦する程俺は
「
「殺し屋がソレ、言うッスか?」
右手にだけ装着された籠手が輝く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます