モラン商会は草刈りの手伝いをした?
「大量大漁。やったのー。」
「ねぇねぇねぇ、これなら当分は休めるかな?」
馬車に乗った二人組はモラン商会へと向かっていた。
「んー、多分事務手伝いかのー。
副会長殿、来る前の段階で相当参っとったし、仕事残っとったし。なんならこれからソレで仕事は増えるし、逃げられんのー。」
小柄で少し肥満気味の男は幌付きの荷台を示して言った。
開け放たれた幌馬車から漂う凄まじい刺激臭。
頭に針が突き刺さるような刺激臭がする。
荷台に顔を近付ければ目が痛くなり、思わずむせるような臭気。
刈り取ったばかりの草を吊るしているからそうなるのは仕方無い。
が、それでも臭気が後ろにある分にはマシだ。前から吹いてくる風は臭いを後ろへ押しやってくれる。
本当に悲惨なのはこの馬車の後ろにいる者達だ。
馬車はそこそこの速度で走り、商品の風通しを良くするために馬車の幌の前後は開けてある。
前から吹き込む風は幌の中を通り抜け、毒風となって、後ろへ。
「人通りの少ないルートを示された理由、分かったのー。」
「だねぇ。会長からのオーダーって聞いたからなんでだろうと思ったけど、そういうことだったんだねえ。
ねぇねぇねぇ、そう言えば、さっき賊みたいなのが近付いてたんだけど気付いてた?」
猫背の男が肥満気味の男に楽しそうに問いかける。
「あー……さっきの、あれかのー?
何か蜘蛛の子を散らすように逃げてった……あれ。」
理解はしているようだが、その顔は痛ましいものを見る、実に気の毒そうな苦笑いだった。
「多分あれ、臭いで逃げたんだよねぇ?
後ろから来てたし、風強かったから直撃したよね?」
「…………途中、魔法でわざと風を送っていた気がするのは気のせいかのー?」
「バレたねぇ。」
道中人には会っていない。
獣の類いにも会っていない。
『魔物避け』とも称される薬草を、しかも、採取したばかりの新鮮なそれを馬車一杯に積んだ彼らには誰も近寄りたがらない。
無論、この薬草はそこそこ貴重で金にはなるが、後ろから尾行しているところにこの臭気を送り込まれてはどうにもならない。
一種の非殺傷ガス兵器だ。
「ま、それ込みでこのルート選んだろうしのー。
目立つ出来事無く道中を行けるのは流石会長の慧眼と言ったところかのー?」
「ねぇねぇねぇ、会長がこの道指定したんだよね?」
「ん?そう聞いとるのー。
手紙に書かれたルートを副会長から渡されたからのー。」
「会長って、この道が何で安全って知ってるのかねぇ?で、なんであの場所に有るって知ってたんだろうねぇ?
薬屋の皆も驚いてたし、有名な話じゃないみたいだねぇ。
商人の知り合いから聞いたのかねぇ?」
「そりゃないと思うのー。商人にとってこの手のルートは生命と同様。人に渡すことはない。
ま、あの会長なら何処からか仕入れてきそうではあるがのー。」
「凄いねぇ。貴重な薬草畑の開拓と薬屋さんとの契約って、凄い難しいと思うんだけどねぇ。」
「じゃのー。この商会、直に大きくなるだろうのー。」
「ねぇねぇねぇ、そしたら、僕達幹部かねぇ?」
「……面白そうじゃのー、それ。」
臭気の跡を残して馬車は行く。目指すは、未来の超大規模商会、モラン商会だ。
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