駆け出しニューマンの転職

 そんなこんなで俺は捕まり、後ろ手に縛られて、さっきまで乗っていた馬車諸共に盗賊団のアジトに連行されていた。

 背の高い草むらを歩く中で、最初は盗賊と草の合間に先輩の姿を探していたが、何処を探しても見えない。

 不吉なことを考えたくなくて、何かを見て気を紛らわせようとして、結局見るものがないから盗賊達を見るしかなかった。きっと逃げきったんだ。俺が間抜けで逃げ遅れただけに違いない……


 コイツらの手に持つものはバラバラ、そして殆どがボロボロ。

 槌、短剣、長剣、鉤爪、鎌、斧……半分は錆びまみれで刃毀はこぼれしている。残りの半分はそこまででもないが、売り物には出来ないような代物ばかり。正直アレで斬られたら痛そうだし、衛生的に怪我が化膿してそのまま死にそうだ。

 そして、奴ら自体にも二種類のパターンがある。

 一つは愉快そうに下品な笑いをする奴等。

 そいつらはそこそこ使えそうな、ただし手入れの行き届いていない武器を担いで、強奪した馬車にふんぞり返って、この世は我が物という顔で凱旋していた。

 もう一つは、疲れきった顔で下を向く奴等。

 そいつらは鋳溶かす寸前の廃棄装備を担いで、馬車やら何やら重いものを運んでいた。

 襟で隠れて解り難いが、首には何かを着けている?

 どちらにしろ、汚れで変色した服を着た臭い奴等ということに何ら変わり無い。


 「オラオラさっさと運べ!

 見付かったら手前ら皆殺し確定!死にたくなきゃ急げよぉ?

 ギャハハハハハハ!」

 人は下品を通り越していくと何になるか、今解った。

 醜悪だ。

 馬車に乗る連中は村に来ていた役人にそっくりだ。

 横暴で、傲慢で、自分達が絶対強者で有ることを必死に誇示するために弱者を虐げる。

 あれと同じだ。

 縛られた手に力が入る。それでも縄は無情に手首を締め上げてくる。

 たとえ縄が解けても、この人数をすり抜けて逃げるのは到底無理だ。

 さっき、先輩と離れて逃げた時、こっちもただ真っ直ぐ逃げた訳じゃない。

 蛇行して、人の声のする場所を避けて、息を殺して、大声を上げたタイミングで全力疾走して……。

 草むらで足音がバレない様に、音が鳴っても他の音で掻き消える様に、細心の注意を払っていた。

 子どもの頃の草むら鬼ごっこのテクニックをフルに使ったのにあっさり捕まった。

 なのに捕まった。

 そうなった原因が分からない以上、状況最悪の今逃げても死ぬだけ。

取り敢えず、ここは耐えるしかない。



 「選べよ、ここで死ぬか、働くか。」

 首に枷を付けられた俺にはもう選択肢は無かった。

 あの時逃げておけばまだ良かったのかもしれないな……

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