If?:破落戸と少女の最後の悪夢23
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頭から全身に電撃が走る。
頭の中で血液が弾ける。
腕に力が入って、ナイフを握った手が痛い。
足が勝手に動き出して、地面をバタバタと叩き付ける音が聞こえる。
心臓が早鐘を打ち、その衝撃が肺まで届いて殴り付ける。
目の前が真っ白になって真っ暗になって上が下になって…………これは、何だ?
多分今、俺達は喜んでいる。
が、俺達は何でそれを喜んでいるか全く解らない。
知らないから。
それを全く知らない。正確に言えば、見た事はあるが味わった事は無かった。
『料理』というモノを。
「先ず、これで如何でしょうか?」
先ず、ガキはそう言って俺達を引き連れて来たのは、裏通りの一画、少し開けた場所だった。
何をするかと思っていれば、呆れる程の速さでその辺の瓦礫を組んでサークルを作り、馴れた手付きで転がっていた廃材に火を点けて焚火をし、懐から出した白い小さな石塊を同じく懐から取り出した串に刺して、火で炙り出したのだ。
石……とは言ったが、針並みの太さの串で刺せるあたり、石ではないか。
火に炙られた石は見る見るうちに表面が溶け、泡立ち沸き立っていく。
そうして、辺りには胃の腑を揺らす様な猛烈な香りが拡がっていく。
「今用意出来るものはこれだけですが、どうぞ。」
そう言って、香りの元凶をこちらに差し出して来る。
見た事は……ある。
が、口にした事は無い。あっても解らないし、憶えていない。
奪って喰うモノに味などしない。
食事の時間は隙だらけになる。食事に手を使えば武器を使えなくなる。食事に目を奪われる。油断する。
だから、俺達は何かを奪って喰う時は皆殺しにしてから喰う。
味はしない。する訳無い。
昨日喰ったものもさっき喰ったものも解らない。憶える必要なんてない。喰ってれば死なない。喰えれば死なないで済む。口に出来ればそれでいい。
だから、口の中のものは今までにないものだった………
香ばしさ、うまみ、塩気、温もりが口から全身に伝わった。
飢えない様に必死で生きて来た俺達には味覚は有って無いモノだった。
口にしてそれを心地好いと思った事は無かった。
口にして明日には死んではいないかと心が騒めかなかった事は初めてだ。
安らぎだ!安らぎが在る!
「なぁ、お前……」
目の前の女に目を向ける。
輪郭がぼやけて無様な奴だな……この女。
「……………私は、『オマエ』ではありません。『リザ=テイル』と言います。」
「なぁ、リザ=テイル。
礼をしたいって言ったな………。」
声が震えている……何故だろう?
「えぇ、言いました。
因みに、今のソレはお礼の一端でしか有りません。
私の家では、何が無くとも先ず特性焼きチーズをお礼に!と言うのが定番ですから。」
歪んだ視界の向こうで皆に串を渡しつつ、俺にそう言った。
「なら、お礼を頼む。」
「………………何をですか?」
俺達が望むもの………………金、酒、食い物、命………………
頭の中で礼を望む。何を望む?俺達がこいつから礼をされて最も得をするもの……………
「俺達を、向こうに連れて言って欲しい!向こうみたいに阿呆みたいに幸せな顔して笑って飯食って眠れる世界が欲しい!」
それが一番得をするもの…………否、欲しいものだった。
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