If?:場違いな少女の最後の悪夢7
『お初にお目に掛かりまして光栄で御座います。貴方様がこの都市、ひいてはこの国で最も巨大な
幹部の一人が連れて来た男はそう名乗った。
薄い緑色の衣を身に纏い、頭には何処かの民族の帽子のようなものを被り、常に目元を細めて口角を上げ、うやうやしくお辞儀をして流暢に喋る。
『この度はミギー=シミラ様のご紹介でここまでやって来る事が出来ました。
細々と商いをしていた我々にシミラ様は良くして下さいまして…………………』
初対面。
滔々と、流水の様に、流暢に、一切の淀み無く、つらつらと、言葉が流れ出る。
男はデリット=クライムと名乗った。
裏の商業組織『モラン=カンパニー』。それがそいつの所属する組織だと言っていた。
奴は生活雑貨から鉱物から高価な装飾品から違法な薬物から兵器から特定の人間の命までを扱っていると
男は何処で嗅ぎ付けたか知らないが、組織間の情報や情勢に異様に詳しかった。
敵対する組織の情報を腑分けでもしたかのようによく知っていたし、逆にウチの情報を、それも幹部にしか開示していない情報も知っていた。
『この度、我々モラン=カンパニーは、ティック様のお役に立つべく我ら組織の総力を結集させました。
きっとお気に召して頂けるかと存じます。例えば……』
そう言って懐に手を入れようとして……。
「下手な真似をしたら落とす。」
後ろから光り輝く太刀が突き付けられ、商人の首の皮寸前でピタリと止まる。
脅し文句は相手次第で脅しでは済まない。
何を『落とす』かは、言うまでもあるまい?
『幹部連中が俺の元に誰かを連れて来た時は、別の幹部が立ち会う。』それがこの組織のルールだ。
それは、連れてきた幹部が間抜けであったり、例えば裏切者であったとしても、その場で連れて来たヤツごと粛清出来るようにする為のルールだ。
「…………これはこれは。大変失礼致しました。
こちらは我らが扱う商品の目録で御座いまして、怪しいものでは御座いません。」
そう言ってゆっくりと懐に入れていた手を取り出す。
僅かに日に焼けた紙束。
それを片手で器用に広げ、後ろに向けてゆっくり見せる。
乱暴にひったくり、一通り検分をした後、
「………ボス、これを。」
投げて寄越した。
空中で歪んだ放物軌道を描きながら手元に飛んでくる。
「……………………。」
酒や食い物、馬車や馬、日常雑貨に魔道具、人材派遣。
それだけなら単なる商人で済んでいたな。
毒物、武器、違法な魔道具、密輸禁止の生物、奴隷、危険な仕事をこなしてくれる人材……そして。
「『命』まで売っているのか。」
「えぇ、勿論で御座います。
『売れるものを網羅的に。』それが我々のモットーで御座います。」
商人特有の笑顔を絶やすこと無くそう言った。
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