開幕~驚愕~
後は縄を結び付けてある梁に足を掛けて、蝙蝠の様に天井にぶら下がる。
地面からは離れているが、梁との距離はそう無かったお陰で足が梁を捉える事が叶った。
猛威を振るう縄が一時、息をひそめる。
蝙蝠の様な格好になった事で、一度だけ息を整えて、空いた両手で結び目をほどく。
シュル
死刑執行人がただの縄に戻った。
ドン!!
蝙蝠状態で体から力が抜けていく。
酸素は使い果たした。手足は血液を水銀にでも変えられたかのように重い。
縄が解けた事で重力に引っ張られて地面に近付いていく。
嗚呼、流石にこの高さを頭から落ちるのは不味いな。
地面に届くまでの間に考えが巡り、辛うじて残った意志と、辛うじて動く筋繊維で強引に体を捩って頭からの着地を阻止する。
流石に失敗はしなかったが、頭に酸素が巡っていない所為で不完全な着地となった。
全身を木製の床に叩き付ける。
「痛たたたたたたたたたたた。
全く、何で気が付いたら首吊り実行中なんだ?
『目を覚ますと、首を吊っていた。』なんて何処のブラックユーモアかね?」
あまりの出来事にぼやく……………………………ん?
今、女の声がした。
私が口に出して言おうとした言葉が私の声で響かず、私が言いたかったことを全て、一言一句違わずに女の声が代わりに空気を振動させた。
そういえば、椅子と自分との距離を見ようとした時、縄を解こうと逆上がりをした時、妙なこと……妙なものを見た。
逆上がりの最中。私の足が見えなかった。
代わりに見えたのはスカート。しかも………明らかな女物。
自分の体を見てみると、纏っているのは上流階級のお嬢様の着ていそうな…ものに見せようとした、簡素なドレス(?)
形こそドレスだが、装飾の簡素さと生地の安物加減は到底『ドレス』の定義には該当していない。
しかし、更に驚くべき事が有った。
自分の手足であった。
それぞれの指の長さの比から女性のモノだという事、小指側の手の側面のインク染みからこの手の持ち主が勉強熱心である事、縄を解こうとした際に傷が付く様な柔肌である事から若い女性である事は明確だ。
要は、手足が一回り~二回り縮み、手足が若返っていた。もっと言えば、性別も指紋も掌紋も変わっていた。
吊られた時、何故縄が直ぐに解けなかったのか?その答えは、この予想外の指のサイズにあった訳だ。
慌てて近くにあった手鏡を掴み、顔を見る。
そこには黒髪に黒目の美少女が映りこんでいた。
黒い髪は特別なケアをされている様な痕跡は無いが、傷みは無く、ツヤが有る。
黒目は大きく涙で潤っている。まぁ、首吊り後で充血しているが、それでも黒曜石を中央に嵌め込んだ様な輝きはそこに有った。
「な!」
流石の私も絶句した。
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