If1:一歩目
この話に後日談と言う後日談は無い。
豚嬢を救って仲良しエピローグなんて筋書きも無ければ、奇跡的に隠された井戸の横穴を通って豚嬢が生還して私が破滅を迎えるという筋書きも無い。
私とミス=フィアレディーの遣り取りの後、一応学園周囲の捜索はされたが、大事には成らなかった。
数日教員が捜索し、そのまま見付からずにお仕舞。
貴族の令嬢だと言うのに、露骨な手抜き捜索。明らかに不自然だ。
何故、そうなったか?理由は簡単だ。
先ず、豚嬢が自分で敷地外に出て行ったという事実だ。
これは誰かの意志ではない、自発的なモノであり、敢えて探す理由も無い……という事だ。
まぁ、それでも。誰かが豚嬢を唆して学園敷地外に出した可能性はあるものの、もう一つ、問題がある。
『アールブルー学園校則:本校敷地外に出る際は教師に申し出た上、必要書類を提出後、外出する事。許可無き外出は厳罰を与える。』
コレだ。
彼女は許可無く学園敷地外に出て行った。
重大な校則違反。
たとえそれが如何に形骸化していようとも、権力を補強する為の脅しの道具であろうと、どんな悪法であろうと、規律や法律は効力を発揮する。
『校則を違反して勝手に出て行った輩を探す必要は無い。』と言うのが、学園側の意志だ。
こういった学園組織は不正を嫌う。
この場合の『嫌う』それは、『不正を許さない』のではなく、『不正と言う醜聞が外部に漏れるのを許さない』と言う意味。
これ以上事を大事にすれば要らぬ悪評が広まり、体裁が悪くなる。どころか、この学園の性質上、保護者(有力貴族)からの圧力や介入、最悪自分達の首が飛びかねない。
豚嬢の親が騒がないのも、同様の理由だ。
或いは、既に見限られていた……。
まぁ、それはもうどうでも良い事だ。死んだ以上、最早議論の意味は無い。
それよりも見たまえ。これがあの娘の価値だ。
虎の威を借る狐が吼えようが、所詮智慧の無い、革細工にも使えない愚かな狐でしかない。
幾ら権力を笠に威張った所で、死ねばこの有様。価値など無いと切り捨てられる。
ハハ、人は不平等だとは言うが、こうして死体にすれば差など無いものだ。
幾ら金を惜しもうが、権力に縋り付こうが、愛に溺れようが、殺してしまえば皆同じ。一律無価値な死体となって転がるだけ。
無論、私も死ねば同じさ。
豚嬢も私も、死ねば全く同じなのだよ。
こうして、遺体が見つかることも無く、記憶喪失の私はシェリー=モリアーティーとしての人生の一歩目を踏み出す事になった。
そこに、何の感慨も感情も無く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます