If1:成功していたら。或いは教授が居なければ。
「君は、如何する?私の講義を受けるかね?」
「もし………あなたの提案を受け入れ無ければ、どうなるのですか?」
そのシェリー君の持つ、私という未知と邪悪に対する怯えは矢張り変わらない。
「無論。そのままさ。
君は明日も明後日も、この牢獄から出る日まで。否、もしかしたらここを出ても延々と、君は誰かに踏みつけられ、奪われ、蔑まれ、蔑ろにされ、泣かされ、利用され、最期まで今のまま。
それだけだ。」
淡々と起こる未来を計算して断言する。
異物に対する排除行動で相手を殺さんと剣を取り、相手の命ごと建物を燃やし尽くさんと火を灯し、都合の良いスケープゴートに仕立て上げようと画策する事くらい、人ならば呼吸の様にする事を私は知っている。
「もし、あなたの力があれば………変わるのですか?今の、世界が。
こんな世界を壊す事が出来るのですか?」
疑いと、恐怖、そして苦悩が混ざり合った表情を向ける。
体はその心情を表すかの如く後ろへ一歩下がった。
「……………約束しよう。
君の世界がそもそも幸福かは知らないが、降りかかる火の粉を払う位なら肉体や記憶が無くとも容易い問題だ。
後は手を取るだけ。私と君とで戦い、世界を壊そうじゃないか。」
この少しの変化が
「戦い………戦いですか。」
その言葉を聞き、ただでさえ死人の様な顔をしていたのが、目に見えて表情から生気が無くなっていく。
あぁ、矢張りそうなるか。
瞳には光が無くなり、『意志も無い出来の良い人形』という表現が相応しい。
答えはもう知っていた。
「私にはもう、戦う気は在りません。
もう、疲れました。
争い、戦い、勝ち取ったとして、一体何の意味が有るのですか?
彼女達を見返す?何の意味が?
身を守る?逃げれば良いでしょう?
もう、疲れました。
どうかもう……………放っておいて。
もう、何も、したくない。」
項垂れて力無くそう言った。
「そうか…………残念だ。なら君はもう良いね?」
「え?」
一瞬。
シェリー君に音も無く迫る実体の無い肉体はすり抜ける事無く彼女の体に吸い込まれていく。
同時にシェリー君の体は糸の切れた人形の様に崩れ落ち、目を開けたまま動かなくなった……。
「さて……では、始めるとしようか。」
動かなくなったシェリー君の体が動き出す。
その目には光が在る。
しかし、その光は邪悪と虚に満ち溢れたものだった。
「生きる事に疲れて放棄するなら、こちらが有効活用させて貰う。
君は諦めるのだろうが、私は生憎諦めとは無縁でね。
使わないというのなら、君の肉体、新たな私の人生の為に使わせて貰おう。
安心したまえ、最高のパフォーマンスと最適な行動、最上級の結末を向かえることを約束しよう。」
生まれて初めて動かす四肢を慎重に動かし、指の先まで思いのままに動く事を確認した。
もう少女の声は聞こえない。事実上、『居なくなった』。訳だ。
「さぁ、
樹形図は私の質問に対するシェリー君の覚悟で分岐した。
シェリー=モリアーティーはここで終わりを迎え、ここから、ジェームズ=モリアーティーの完全犯罪が始まる。
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