同盟脱出計画3

 巧くいく訳が無い。

 無理が有り過ぎる。

 権力を振りかざしながらも空気を読んで忖度する連中にとって『さるお方』が魔法の言葉であったとしても、こんな陳腐な台本では誰も騙せやしない。


 「勅命?ふざけるなよぉ!テメェらアホ抜かしてっとまとめて輪切りにすっぞぉ!」

 頑丈そうな鎧と大剣を装備した大男が人ごみを掻き分けてズンズン迫って来た。

 頭に血が昇った様子でやって来る。まぁ、そうだろうさ。

 が、慌てて飛んで来たもう一人の男。普段は如何にも冷静で澄ましてそうな男が血相を変えて大男の頭…兜をそこらの握り拳大の石で殴りつける。

 ガチィン!

 直接頭蓋骨で喰らっていたら頭蓋骨陥没で死んでいるな。アレ。

 「テンメェ!何しやがる!」

 あ、無事だねアレ。

 「馬鹿やってるんじゃねえぞ。

 とっとと戻れ!」

 澄まし男が大男を無理矢理引き摺って行く。





 「おい!どういう事だこらぁよぉ!」

 建物の陰で二人の男が言い争いをしている。

 「考えろ馬鹿。」

 「考えるまでも無くアイツらニセモンじゃねぇか!」

 「だから考えろって言っただろう馬鹿野郎。

 ここで偽者明かして不正の証拠を他の連中に掴まれてもみろ。俺達は学長のグルとしてお尋ね者だ。」

 澄まし顔がドスの利いた声で大男を脅し、睨み付ける。

 「他の家の連中と俺達は仲良し子好しのお友達じゃないんだ。

 迂闊に飛び込んだら他の家の餌食にされる可能性を考えろ!」

 澄まし顔の言葉に黙り込む大男。

 「チッ!

 じゃぁ、アイツらが逃げた所で皆殺しにするかァ!」

 眼をギラギラと輝かせて男が剣を収めた。

 「大人しくなったか筋肉達磨。

 行くぞ。穏やかに逃がして、逃げた所を総取りだ。」

 「解った。じゃぁその時まで……大人しくするかよぉ!」

 男達は、表面上は穏やかに、しかし、獰猛な獣として同盟の元へ戻っていった。



 「大変失礼しました。」「我々レッドライン家一同、あなた方へのお力添えを惜しみません。」

 男達はどこかから戻ると、そう言って我々に笑いかけた。嘘臭い笑顔を……な。




 最初に言っただろう?

 『ここ、伏魔殿こと監獄ことアールブルー学園は貴族の令嬢が多く在籍する、所謂お嬢様学校である。

 学園の経営や方針には多くの貴族の息が掛かり、この学園を卒業した者の中には王族の親族に成る場合もある為、陰謀やその他策謀が飛び交うのは必然。

  身分が自分達より低いシェリー君を眼の敵にして牙を向ける輩が多いのは事実だが、その他にも、貴族令嬢同士でも策謀や裏側での闘いが多い。

 『未来の御后様になるのは自分で他は邪魔。』

 そんな気持ちが見えても隠れてはいないのがここである。』と。

 道中のダンジョンもそうだったが、皆で協力して一つの事を為す気がここの連中には無い。

 『あわよくば周りを出し抜き自分だけ良い思いを。』これを全員が考えている。


 要は、『我々の周りは敵だらけ。だが、我々の敵同士が味方である訳でもない。』という事だ。


 奴等は我々に刃を向け、同時に自分の周りの連中にも刃を向けている訳だ。

 だからこそ、奴等は我々に軽々に手を出せない。

 不正の証拠を流出させない為に5つの家は全力で我々を(表面上)守り、皆の眼が届かない所で不正の証拠を回収しに行く。

 それ以外の連中も、あわよくば我々から学長の不正な財をネコババする気である。

 かと言って他の連中の目の前で略奪行為に及べばそれこそ格好の的。

 故にそれぞれが表立って手を出せない。


 この場合、我々が『さるお方』の使いである方が、そう扱う方が都合が良い訳だ。


 何度も言おう。『我々に力は無い。』

 が、敵には力がある。

 『敵の敵は味方』とはよく言ったもの……あぁ、この場合は全員敵だから『敵の敵は敵』か………。


 フフフ……ハッハハハハハハハハハハハハハ!

 シェリー君にとってこの程度の雑兵、敵では無いよ。


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