同盟脱出計画1

 「ここの学長が不正をしているという情報を受け、さるお方から勅命を受けて我々はここに調査をしに来た。

 学園の教師陣一同、生徒、その保護者に前もって伝えずに調をした事をここに謝罪する!

 しかし、この通り、人質役として協力をして貰った少女は無事だ。

 皆、武器を収めて欲しい!」

 狙撃手改め、さるお方の使いが今にも武器で襲い掛かりそうな武装集団相手にそう言い放つ。

 それを聞いた連中が困惑しつつ、しかし徐々に各々が手に持っていた得物をしぶしぶ、ゆっくりと、困惑そのままに切っ先を下げ始めた。


 人質&立て籠もり犯&傭兵が同盟を結び、一時間程が経過した今。同盟は一体何を企んでこんな事を起こしているか?その疑問に答えるとしよう。

 ただ、その為には少し時間を巻き戻さねばなるまい。





 ダンジョン。大広間にて。

 今、貴族包囲網逃走同盟(仮)…長いので同盟と略そう。同盟のメンバーは頭を突き合わせていた。

 爆風で怪我を負っていた男は傭兵達の簡易の治療である程度まで持ち直し、肩を貸せば辛うじて歩ける程度まで回復。

 学長は弾丸を掠められた後は完全に伸びていたので、手足を縛って地面に転がしてある。

 「時間もあまり有りませんので、なるべく端的に説明します。

 先ず、我々の目的はここから無事脱出して貴族から逃げ延びる事。そして、ここから皆様で脱出するには幾つか障壁が有ります。

 先ずは単純に学園敷地に居る貴族の私兵。これは雇われていたお二人の方が戦力については詳しいのでは無いのでしょうか?」

 「あぁ、ご貴族サマの私兵な。

 立派だ。一糸乱れぬ隊列に寸分狂わねぇ曇り一つ無い剣やら鎧。俺ら雇われと違って充実した装備を持ってるぜ。」

 「結論は?」

 「正直装備は強いっス。けど、使ってる連中は明らかに斬り馴れて無いっス。

 アイツら完全トーシロの動きっスもん。」

 「レンの言う通り。明らかに素振りばっかで剣や鎧が実戦で使われた痕が全く無い。

 お嬢ちゃん……雇い主様と真っ向からやり合えば先ず向こうは一撃も入れられない。」

 「『お嬢ちゃん』で結構です。

 では、正面から殴り合って突破出来ますか?」

 「それはそれ、これはこれ。

 真っ向から一対一をやれば勝てるが、あの数は無理だ。

 俺が見た時既に800は居た。数のゴリ押しで押し潰される。」

 「では、コッソリと逃げるというのは?」

 「包囲網が十重二十重に張り巡らされている。校舎から出た段階で詰む。

 もし、それを掻い潜って敷地外から出たとしても、馬車多数、騎兵多数が追いかけて来る。この辺の地形だと隠れる場所は無いから、余程良い馬でも居ない限り無理だ。」


 第一の障壁。雑で単純だがかなり強固だ。

 「……………良いかナァ?

 そこに色々不正の証拠が有るんだから、それをちらつかせて押し通れば良いんじゃないかナァ?」

 矢張りそう考えたか。

 確かに、今我々が持つ不正の証拠、そして地下施設という物的証拠は公正な天秤の上では猛威を振るうだろう。

 正義の女神アストライアやエジプトの死者の書ならばそれにて決着。めでたしめでたし。

 が、残念ながらこの世に公正な天秤など有りはしない。

 「確かに、それを使えば学園からの脱出時の障壁は突破できます。

 が、その後の障壁はどうにもならなくなります。

 その後の障壁。それは………………」


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