我々だけがいつも通り


 「ねぇ、大丈夫なの?お父様から手紙を貰って、言う通りにあの下民を人質にしたけど……予定だともっと早く終わってる筈でしょ?」

 テントに入って来たのは少女。

 紫色の瞳、腰まで伸びた紺色の髪の少女。

 そう、シェリー=モリアーティーを人身御供に仕立て上げようと初めに声を上げたあの令嬢だった。

 「マリーお嬢!」「マリーお嬢様。」

 険悪そのものだったテント内の雰囲気が張り詰め、令嬢に向けて二人の男が我先にと一緒に頭を下げる。

 「まったく、一体何なの?学園に賊を入れるからを渡せってお父様の手紙で言われたから、ちゃんと渡したのよ。何処の貴族の奴でもない、下民を。

 それは確認したでしょ?

 予定だと確認した後で然るべき措置を行って直ぐに解放される筈だったでしょ?

 何をしているの?」

 その声には怒気は無い。が、男達はその質問に対して怯えている。

 屈強な男が、腹芸の得意そうな男が、小娘相手に怯えていた。

 「さっさと片付けなさい。お父様の頼みと言えど、ここまでトロいとアナタ達のクビ、飛びますよ?」

 「「承知いたしました!」」

 男達が頭を下げて叫ぶと同時に、ランプの灯が揺れ、テントの外がガヤガヤと騒がしくなってきた。

 「何?」

 「「様子を!」」

 男達がテントを飛び出し、外へ飛び出す。

 夜だというのに松明の所為で目が眩む。

 周囲の貴族の私兵が騒ぎ出し、動きがせわしなくなっている。

 「如何した⁉」「緊急です!立て籠もり犯が自分から外に!」

 「あ⁉何だと!?」

 「どういうことです?説明を。」

 二人の男達が目の前で渋滞の如く密集した人の群れを掻き分けて進んで行くとそこには………






 軽傷を負い、手に荷物を持った男が4人。

 傭兵と思しき若者と、それに担がれた大怪我を負った男。

 大きなバッグを持った、粗末な服を着た小娘1人。

 妙な道具を片手に持った、明らかに戦い慣れしている傭兵。

 そして、傭兵のもう片方の手には……………この学園の長が、罪人の如く拘束されていた。




 「おーい、待て待て。撃つな撃つな。俺達は敵じゃなけりゃぁ立て籠もり犯でもねぇ。」

 道具を持った男がそれを頭上に振り回して、辺りに敵意が無い事を知らせていた。

 その姿は堂々と、それでいて晴れやかそのものだった。





 「本当に……ナァ」

 「堂々とニー」

 「ヌゥ、やってしまったな。」

 「ネェネェネェ………これ……本当に、大丈夫?」

 「んー………ここまで来たら腹、括るしか無いのー。」

 5人の立て籠もり犯は火に照らされながら心臓が凄まじく早鐘を鳴らしている。


 「ジャリスさん、何考えてるんっスか?あの嬢ちゃん?正気っスか?」

 若兵も、自分達の行動に自信が持てずに動揺が見える。


 「あー、まぁ嬢ちゃんを信じろ。それと、気ぃ抜くなよ。俺達はここからが勝負だ。」

 狙撃手の方は相変わらず眠そうな眼を、しかし眼の奥に光を隠していた。


 「一体…一体ナんデスノォォォォオオオオオオおおおおン!」

 絶叫する三頭身。


 「さぁて、では、シェリー君、堂々たる演技を期待するよ。」

 「見ていて下さい。教授。」

 我々はいつも通りであった。






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