一方外では
アールブルー学園。新学期当日、夜。
校庭や学園周囲には物々しい雰囲気が充満し、一触即発が辛うじて起こっていない状態。
あちこちに華美な馬車や、野営用には見えない豪華なテントが建てられて互いの家が虚栄心剥き出しで見栄を張り合っていた。
中では快適空間でお嬢様達がご機嫌取り従者を侍らせ、外では各貴族の手勢が立て篭もり犯の警戒と他貴族への威嚇を行っていた。
まぁ、立て籠もり犯が人質に取っている人間が、政治的にも道徳的(独善的な)にも救う意義が無い人間なのだから、緊張感は自ずと貴族同士の見えない戦争に向かうのは必然だろう。
ただ、立て籠もり犯の居る学園校舎の周囲は幾つかの貴族の私兵達がガッチリと固めて蚤一匹這い出る事が出来ない様に警戒している。無論、その様子は仲良しグループが楽しくトークをしている様には見えない。
対して教師陣は、あちこちで貴族のご機嫌取り。
フィアレディーは松明で照らされた学校の見取り図を睨んで沈思黙考。
敷地の外からは怒号が響き渡る。
「そこを退きな!アンタにゃ用は無い!知り合いが中に居るんだ!」「姐さん、マズイんじゃないんですかい?」「ちょっと落ち着いてくれよぉ。」「何言ってるんだい?これだけ騒いで来ないって事は…あの子が攫われてるかもしれないんだよ!」
真夜中の混沌とした伏魔殿の中、純然たる殺意と緊張感に満ち満ちた箇所が5つ。
レッドライン家・ヴェスリー家・アンダン家・カレシム家・バレン家の周囲は他と比べて異様な緊張感に満ちていた。
「どういう事だ!」
とあるテントの中、ランプの光に照らされ、机を力任せに叩いて怒鳴る男が居た。
2mは有る巨体、鎧に身を包み、傍には並の人間では持つ事さえ能わない大剣が有った。
「言ったでしょう。主命です。
待ちの姿勢で大人しくして居なさい。」
机の向かいにはツンと澄ました顔の男が灯りで輝く眼鏡を拭きつつそう言った。
「お嬢が戻って後はゴミ掃除だけだろぉが!
人質も、えっと、どっかの平民メスガキ一人だけだろ。さっさと殴り込んで皆殺しにすりゃぁ良いだろぉが!」
その態度が気に喰わないとばかりに机から身を乗り出して眼鏡の男を睨みつける。
ミシギシィ!
机が男の膂力で悲鳴を上げているのが聞こえる。
しかし、澄まし顔の男は、まるで夜に眠り、朝、目が覚める様にソレを当然の事として、落ち着いて言葉を返す。
「本来ならそうですよ。
人質が同じ貴族の所の愛嬢ならば、下手な突入は貴族の令嬢を死体袋に入れて渡さねばならず、全面攻撃が約束された宣戦布告になり得ます。確実に死にますよ。沢山。
が、今回の様な場合は人質が
しかし……」「ならさっさとぶっ殺しに行くぞぉ!」
「話を聞けこの筋肉ダルマ。」
眼鏡を拭いていた澄まし顔の顔が険しくなる。声も一段階低く、ドスの効いたものとなった。
「あぁ?なんだこの枝野郎。」
鎧の大男が剣に手を掛ける。その目はギラギラと開き、瞳孔がカッと開き、正に獰猛な獣そのものだ。
「なんでヴェスリー、アンダン、カレシム、バレンの連中が来てるのに突撃しないか?どころか他の何も知らん連中が突撃しない様に止めているか?考えろボケ。」
澄まし顔が睨み返す。
レッドライン家武官、ドレッド。
レッドライン家文官、ブルーム。
それが二人の名前だった。
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