謀らずとも一蓮托生


 「え?え?え?え?………ジャリスさん………どういう事……ッスか………?」

 察していない拘束役と4人組が目を丸くして解らないと言った表情をする。

 「私の懐から紙が出ていると思うのですが、それを取って頂けますか?」

 こちらも時間が無い。一見で説明するのが手っ取り早い。

 「ジャリスさん……どうします?」

 戸惑いながらも銃の方にアイコンタクトを取っている若兵。

 「………慎重に取ってみろ。

 油断するなよ、その手錠だって本当に効いてるか如何かは解らないぞ。」

 正解。その手錠には手袋程の効果も無い。

 だが、それを敢えて効果が有るフリを続け、懐に隠した書類を手に取らせる。

 若兵は慎重に、更に紳士的に、体に触らない様にシェリー君の懐から書類を取り出す。

 いやぁ、良かった!

 もし、非紳士的な真似をしていたら…………………この連中を如何していた事か……………。

 「………爆発は、しないみたいッス。」

 ビクビクしながら書類の束を狙撃手へと投げ渡す。

 片手で銃を向けたまま。しかも、銃口を微動だにさせず、書類を手にする。

 銃を向けながらも書類に目を向け……………抑え込もうとしながらも、僅かに凍り付いた表情を見せた。

 「……………………。」

 「ちなみに、偽造や贋作やでっち上げではありません。」

 驚くだろうさ。

 精々依頼人たるの特殊なご趣味を見てしまい、一回の学園長を敵に回す程度と思っていたのが、どっこい貴族達の闇の中枢へ飛び込んで来た訳だ。

 まー…見込みが甘い。

 今回に限っては面倒事が大き過ぎたと目を瞑るか。打倒はあまりしたくないが。

 「………本物だって事は、疑っちゃいねぇがね……。」

 眉をひそめて…というか、銃を持っていなければ頭を抱えているな。アレは。

 「スゥ………………………………………………。」

 息を吐いて沈黙する。

 「アァ………嬢ちゃん、何してんだ?

 お前さん、最初からここに何か有って来たって訳じゃないだろ?

 こんな面倒事ほじくり起こして………ハァ、何企んでる?」

 その手に握られていたのは、


 ・レッドライン家

 ・ヴェスリー家

 ・アンダン家

 ・カレシム家

 ・バレン家


 学校に寄付をしていた貴族連中の名前が書かれている不正の証拠の束だった。

 火事の学園建て直しの寄付。あれでここを造って、残った財産で上を建てた……といったところだ。

 あれだけ寄付金を貰っておいて、しかも燃やした張本人の三姉妹の家から賠償金をたっぷりと貰っておきながら、上の建物はまるで変わりが無い。

 警備システムと学長室を追加しただけ。明らかに収入と支出が釣り合わない。

 余った収入がここでこんな地下施設に化けていた……という訳だ。

 学園と貴族サイドが結託して行う不正なので露見はしない。

 良い趣味をしている、全く。

 「学園が貴族と蜜月で公平性が無く、不正に搾取した財を蓄えるのを見逃す………挙句に騙されたこちらの方々を見殺しにする事………そんな事を見過ごせなかったのでここまで来ました。

 他意はありません。」

 あー、このセリフは完全に私のではない、シェリー君オリジナルだ。

 知識の類は存分に彼女に教えたし、悪い考え方もしれっと混入させたのだがこれは変らない。

 あぁー………相手の狙撃手。他意が無さ過ぎて毒気抜かれた挙句鳩が豆鉄砲喰った様な顔してる!

 ハハハハハ、そうだろう?そうだろう!

 私も吃驚する。

 こればかりは私には無い才能だ。

 「最早我々は同じ邪魔者。謀らずとも一蓮托生となりました。

 ですから、もう取引や腹の探り合いなんてどうでもいいので、『協力』を、して下さい。」

 振り切ったシェリー君が爆弾を喰らわせた。

 狙撃手の眼が白黒していた。





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