得意分野なものでね。

 この地下施設は大規模である。

 流石に都市一個の地下を丸ごと施設にしている事に比べれば大したことは無いだろうが、日曜大工で如何こう出来る規模は超えている。

 で、この施設を作った目的が『金庫』であるというのなら、金庫の中身は金庫の外側に相応しい物となっている。

 要は、金庫の堅さと中身の価値は比例する訳だ。

 例えばだ。

 一国の金庫が、計100通りのパターンしか無いダイヤル錠であると思うかね?

 無いだろう。桁が最低でも6つ違う。

 中層階級の家の金庫が厚さ2mの合金で武装しているかね?

 無いだろう。2㎝…どころか金庫が無い可能性さえ有る。


 さぁ、ここで問題だ。

 セキュリティーが強固である筈のご令嬢学園。その中でも最も侵入が困難である筈の学長室。

 更にそこの隠し扉を探し当て、石人形の群れを6回撃破し、更に隠し部屋を探し当ててここまで来て……やっと宝にありつける。

 そんな対価が、石ころ幾つかと得体の知れないものがちらほら。

 余程の価値があのガラクタに無い限り、釣り合わない。

 そして、この規模には到底釣り合わない。

 これだけの規模の施設を、複数名が互いを牽制して迄作り上げるに相応しい物が在って然るべきだ。

 ならば、探すべきは一つ。


 パキッ


 宝石の入っていた箱の表面の木を剥がす。

 別に強引に剥がした訳では無い。一見すると凹凸の無い木箱に見えるが、所謂寄木細工になっているというだけだ。

 考えてみたまえ。

 かなりの重量が有る箱。なのに中身はガラクタが少しあるばかり。

 表面は木製。しかし、中身も木であるなら到底この重量には見合わない。

 なら、箱本来の材質はもっと重い、金属製と考えられる。

 しかし…わざわざこんな凹凸が無い木の細工を表面に施す意味は有るか?

 無い。普通なら無い。

 金属製の箱を見せつけておいた方がそれだけ開ける難易度を高く見せられる。

 金属の箱と木の箱。二つ有ったら木の箱の方が開けやすいと思わないかね?

 それをやらなかったのは……。


 「有りましたね。」

 表面の木の細工を外していくと、冷たい金属という本性を表した。

 そして、そこにはまたしても鍵穴が有った。

 「シェリー君、人に盗まれたくない物が有る時、どういった手段が物を守る上で効果的か解るかね?」

 「えぇ、先ずは警備を固めて盗もうとする人間の意志を挫く事。

 そして、もう一つ。

 もし、侵入された時のことを考えて、『本当に盗まれたくない物』の代わりに『盗まれても構わない物』を掴むように誘導しておくことです。

 こうすれば本当に盗まれたくない物を盗られる事無く、相手は満足して撤退する可能性が発生しますから。」

 「正解だ。十二分に学習している様で何よりだ。」

 「それはもう、先程からヒントを頂いておりましたし、普段からこういった事柄を教えて下さる悪い教授にご指導頂いておりますから。」


 ガチャリ


 隠された錠が外れ、コレを作った人間が本当に盗んで欲しくなかった物とのご対面だ。


 金属製の箱なぞに価値は無いから鍵が開けば中身を抜いて賊は立ち去る。

 細工で鍵は隠れて見つからない。

 賊に本当に盗まれたくない物を盗まれずに終える事が出来る。


 残念だね。その手の手合いは飽きる程見て来たんだ。

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