教授の査定を始めよう
「この場所自体には大した警備を仕掛けている様子は有りませんね。」
「の、ようだね。」
牢獄に足を踏み入れ、悪趣味な仕掛けの有無を確認した後、慎重に木箱を観察し始める。
ガラスの様に滑らかに磨き上げられた木材。木製であるが、継ぎ目や釘の類は見当たらない。あるのは簡素ではあるが見苦しくは無い程度の金属の装飾のみ。
木箱は矢鱈重いらしく、一通り見終えた後で底面を見ようとしたシェリー君が持ち上げるのに少し難儀してる。
「これ、一見した所鍵や蝶番の類は有りません………が!」
箱を引っ繰り返すとその裏側に鍵穴が有る。
「ここですか。
………………この程度なら、直ぐに開きそうですね。」
まぁ厳重な金庫だろうと何だろうと、今のシェリー君にとっては東洋の障子並のセキュリティー程度にしかならない。
シェリー君にはその手の技能を教え込んでいるからだ。
たとえ金庫に閉じ込められようと、手錠を五重に掛けられていようと、荒縄でガッチリ縛られていようと、紙でも破る様にセキュリティーを破る事が出来る。
何故そんな事を教えたかって?無論、護身術だとも。
物騒なご時世。か弱い少女が拘束から逃れるための方法を教えるのは紳士として、当然の、事では無いかね?
ガチャリ
まぁそんな訳で、淑女の嗜みの前に鍵は屈した訳だ………。
さぁて、お宝の中身は………………
「うーん…………まずまず。」
初めに手に取ったのはシェリー君の握りこぶし大のルビー。
一見して本物のルビーで有る事は間違いない。まぁ、そもそも偽物をここに置いておく意味は無いからね。
ピジョンブラッドでこのサイズなら食指が動くが……この色合いと輝きなら、行きがけの駄賃か、はたまた人を使って盗ませるかね?
「……………………………………。」
「フーム、コレは?」
次に取り出されたのは私の元々の知識には無い結晶体。
ルビーよりは少し大きく、手触りは氷の様に冷たく、ズシリとした重量を感じる。
一見するとクリスタルの様に見えるが、その色は赤と青が混じり合い、近寄って観察するとその赤と青が混じり、結晶の中で魚の様に蠢いている。
元々の知識としては知らないが、資料として見た事がある。
純度の高い魔法のエネルギーやそれを含む物が高圧高熱を受けて、結晶構造を取る事がある。
それは蒸気機関における石炭や泥炭の様なもので、魔法を用いた道具や設備を運用する動力源として使われる物。
『魔力結晶』というヤツだ。
「これに関しては、実物として観察した標本数が圧倒的に足りないから断言は憚られるが、その宝石と同じくらいの価値だろう。」
紙幣や硬貨と違って宝石や稀少鉱物は体積の割に価値が高い。
特に、宝石はカットや装飾を変えれば別物として流す事が出来る。宝石内部の傷や色合いまで詳細に記した書類が有っても形状が変われば同定する事は難しい。
鉱物に至っては溶解してしまえば元の形も何もあったものではない。
『不純物の割合で足が付く?』合金にすればいい。
そも、この結晶は動力源として使うのだから、使ってしまえばこちらの物。証拠はエネルギーとなって回収は出来ない。
隠し財産としてはまぁまぁなチョイスだろう。
まぁ、この程度では駄賃としては足りないがね。
「ナァ!」「ニー……」「ヌゥ。」「のー!」
鉄格子の外からシェリー君の手の中の物に熱い視線が4つ程飛んでくる。
「他の4箇所も見ます。少しお待ち下さい。」
視線に応える様に箱の中に石ころを戻し、鉄格子の外へと出て行った。
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