信頼≠無疑心


「解りました。

ですが、万が一何かあった時のために私も同行します。

宜しいでしょうか?」

「それならナァ……」

「まぁ、良いかにー……」

「ぬぅ、仕方無いか。」

「ねぇねぇ…なんでもない。」

「出来ればここで待っていて欲しいんだがのー……。」

そう言った次の瞬間。長身痩身の懐から何かが転がり落ちた。

「あ………ちょっとそれ、良いかナァ?」

「はい……!」

転がり落ちたものの正体に気が付いた途端、シェリー君は目を瞑り、顔を背ける。

カッ!!

顔を背けると同時に大広間が昼の様に明るくなり、5つの足音がバタバタと鳴り響く。

「皆さん!!何を!?」

油断していたシェリー君は一手遅れた。

ガラガラガラガラ……。

光……閃光玉が効果を失い、シェリー君が視覚を取り戻した時には5つ目の通路へ続く入り口は閉ざされていた。


シェリー君は、まんまと一杯食わされた。


シェリー君が油断していた所で長身痩身が落としたフリをして閃光玉を食らわせ、その隙に5人だけで勝手に攻略を始めてしまった訳だが……。

「止めたまえシェリー君。」

「そういう訳には参りません。

今すぐここを破壊して合流しませんと!!」

シェリー君はそう言いながら大広間と通路を隔てる壁を破壊しようとする。

全く、何の為にあの5人がシェリー君に今休息を取らせようとしていたと思っているのかね?

今の疲弊状態では何も出来ないし、下手に殴れば手足を負傷して終わる。

「結論として、大人しく待ちたまえ。今は何も出来ない。

あぁ、そうそう。今回、シェリー君。君にも落ち度が有るのだよ。

自然に落としたように見せかけた閃光玉なんて初歩的な物に引っ掛かって…………。

よくよく観察すれば、言葉の端々に妙な間が有り、互いを見回して、明らかに何かを企んでいた顔であっただろうに。

閃光玉を取り出す時、動きに不自然さが有っただろう?懐から取り出してわざわざ手から零れ落ちる様にしたあの動きだって、注意深く観察していたならば、容易に見破れた。

それを怠ったが故に不意の動きと落とし物に注目し、挙句に一手遅れて閃光から目を反らした。

消耗は解るが、観察は怠るべきではない。信頼関係を築く事と疑わない事は=では無く、むしろ≠…逆だ。

信頼しているならばこそ、徹底して疑え。これ以上の疑いの余地無く、その全てを嘘だという前提の元、非道に、非情に疑い、真実を暴こうと動きたまえ。

本当に信頼出来る相手であればそもそも何処まで疑ったところで無意味な行為にしかならない。それに、シェリー君が信頼する相手だ、疑った程度で『私が信じられないの⁉』などと怒る事も有るまい。あぁ、因みに今の台詞は疑われると都合の悪い人間が『人の善意』を盾に、『他人への疑心という罪悪感』を矛に追求を躱そうとする手口だ。

まぁ、今回は疑いが足りなかった、甘かったという事だ。今は待ちつつ反省すると良い。」

「……………………解り、ました。

申し訳有りません。取り乱してしまいました。」

シェリー君は項垂れながら握っていた拳を降ろした。

しかし、未だに拳は握ったまま、悔しさで美人が台無しである。

「心配する必要は無い。何か有れば私も居る。万が一、シェリー君が手に負えない脅威が有れば、私が手を貸そう。」

『甘い教授ヤツだ。』と思うだろう?あぁ、私はシェリー君を甘やかしている。

と言っても、何の考えも無しにそんな事をしている訳では無い。

シェリー君は危ういのさ。

自分に対して茨の道、しかも茨の棘に猛毒が有る様な洒落にならない道を歩もうとする様なストイックさ……破滅願望じみた危うさが有る。

こんな場所に逃げずに身を置くあたり、察して欲しい。

まぁ、という訳で、甘さの無いシェリー君の代わりに私が甘々であろうとする訳だ。

と言っても、私の甘さがどの程度甘いのか、甘いだけなのかは解らんがね……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る