家探し2

 「先ず、この場所は隠し場所として非常に優れています。

 他の部屋、教室と違い、不特定多数の人間が出入りする、万が一うっかり見つかってしまう危険性は有りません。」

 盾やトロフィーを一個一個確認していく。

 盾の裏に何かの文字が書かれていたり、人の名前や賞の名称に偽造した何かの暗証番号では無い。

 トロフィーの金属が金で有る………可能性も無い。

 異様に軽い。なによりメッキが禿げかけている。

 「警備も他の教室に比べて厳重ですし、なにより、警戒厳重にしても怪しまれません。

 他の、何も価値の有る品の無い一般教室に厳重な警備を敷けば、『そこに何か大事な物が有る』という宣伝をする事になります。

 ですが、ここならば『警備が厳重でも当然。』と思われて、良からぬ事を考える人間や学園に在籍している者に疑われる事は有りません。存分に警備を厳重にすることが出来ます。」

 机の上に投げ出された紙片の数を手に取り、目を通す。

 校舎の新築の時の費用に関する書類。一通り目を通すが、怪しげな文言は書いて無かった。暗号の類は無い。

 一枚ずつ陽光に照らして見たが、あぶり出しの仕掛けも無い。

 何枚かまとめて透かして共通の文字が浮き上がらないかも確かめるが、それも無い。

 同じ文字をピックアップして重ねて見るも何も浮かばず。

 内容は新築校舎を作る上で掛かった費用の詳細について。

 建材や机や椅子、黒板、掃除用具や書籍、宿舎の家具等が数、値段、まで正確に書かれていた。

 使われているのは最高品質の物ばかり。42億5千万エル(エルはこの国の通貨単位)という、小国の国家プロジェクト並みの金が動いていた。

 「それに、気になることが有ります。皆さんは聞くところによると、元々ただの木こりや冒険者。この学園とは全く縁が無く、最近まで生活には特に何も無かった。しかし、最近になって皆さん共通して借金を背負わされ、妙な噂を聞いてここに来て今に至ります。

 この宿舎が建て直されたのも最近。

 両方共最近になって大きな変化が起きています。

 これって…………偶然にしては出来過ぎでは無いでしょうか?」

 「ぬぅ…それは………どういう?」

 中肉中背が首を傾げる。

 「最近になってその噂、ないし嘘は作られた。

 今までそんなものが無かったのに今になって変化が起きた。では、『変化』は何でしょうか?

 『この校舎が建てられた。』確かに。ですが、こうも私は考えました。『学長室が新たに出来た。』と。」

 この学園には元々学長室が無かったのに、今回になってそんなものが出来上がった。

 変化が共通して起きた。他の理由も合わさってこの変化には何かしらが有るのだろうとシェリー君は感じたのだろう。

 「だから、ここに何かが有ると考えた。のかのー?」

 「今までの事も総合して考えると。そう考えられます。

 全く無い。というのも逆に不自然では?」

 次に見たのはこの学園の歴史書の第7巻。

 この学園の50~30年前の歴史。

49年前、善意の有志の方々によって新校舎と宿舎の新設及び諸備品の寄付。

45年前、この学園の卒業生、現アリベリア王国第一王妃ネルベット=マーリア氏が凱旋。

42年前、学園郊外にネルベット=マーリア氏より『王妃の森』寄贈。

38年前、在校生、ラムリア=フェール氏、王国開催剣術大会にて優勝

35年前、卒業生、ラムリア=フェール氏、王国第三王妃に抜擢。

32年前、ラムリア=フェール氏より木剣700本、鉄剣700本、簡易鎧700着。寄贈。

 これにも目を通す。

 文字にマークや印が書かれている事は無い。ページに針の穴が開けられている訳もない。

 本のカバー裏やページの間に何かが挟まっている事も無い。

 寄付金の感謝状が5枚。

 『多大なる御寄付に感謝いたしまして、ここに感謝状を送らせて頂きます。

 20億エルレッドライン家』

 『多大なる御寄付に感謝いたしまして、ここに感謝状を送らせて頂きます。

 7億エル アンダン家』

 『多大なる御寄付に感謝いたしまして、ここに感謝状を送らせて頂きます。

 6億2千万 エルヴェスリー家』

 『多大なる御寄付に感謝いたしまして、ここに感謝状を送らせて頂きます。

 3億8千万エル バレン家』

 『多大なる御寄付に感謝いたしまして、ここに感謝状を送らせて頂きます。

 5億5千万エル カレシム家』

 この前の件で焼けた建物の復興資金だろう。これにも何かの細工は施されていない。

 事務机の引き出しを開けて中身を探る。

 以前の火災の状況報告やその後始末の報告が雑多に仕舞われていた。

 火災報告の中身はランプの不始末という事になっていた。

 証人や証言やでっち上げられた証拠の数々等、流石に例の件は徹底的に揉み消してあるな。

 これにも目を通すが特に細工は無い。

 他には学園の設計図やスケジュールが幾つか有るのみ。

 設計図は二枚有り、一つは49年前の日付の物、もう一つは少し前の日付の物。

 相違点は学長室とその下の応接室やら何やらが有るか無いかの違いのみ。

 これらにも暗号の類は一切隠されていなかった。

 今の所、特にそれらしきものは見つかっていない。

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