火の恐怖
『
作詞・作曲・歌:ジェームズ=モリアーティー
柱燃え 屋根は焦げる 視界は輝き 空気は熱く 富も 命も 燃やし 火は燃える
油燃え 金が燃え 水をくべれば 火は
閉ざされた扉は地獄への入り口 頭が高ければ暴君が殺す 胸一杯に火を吸えば声を喪う
天が焼ければ 逃げるしか 無い 小人は 巨人に 姿 変える
柱燃え 屋根は焦げる 視界は輝き 空気は熱く 富も 命も 燃やし 火は燃える
「教授!不謹慎です!縁起でも有りません!ふざけないで下さい!」
シェリー君が炎に顔をしかめながら歌う私を強くたしなめる。その表情は熱や光の所為でしかめているだけ……では無いのは確実だ。
「シェリー君、別に私は火遊びをしている訳でも無いし、機嫌が良くて歌を歌っている訳でも無いのだよ。」
「……と、言いますと?」
「この歌は火事への対応や危険を訓話的にまとめてメロディーをつけたものだ。
例えば、『油燃え 金が燃え 水をくべれば 火は
油が燃える場合、料理をする人間ならば解っていると思うが、熱した油に水を加えると爆発が起こる。これは火事を広げるだけで意味が無い。
でなくとも、油は水に浮く。下に水がある事で火の手が余計広がる訳だ。
金属、これは燃えそうも無い様に思えるが、ナトリウムは水に入れただけで爆発するし、マグネシウムは水の中でも水の酸素分子を奪って燃え続ける。
水は火を消すものであるが同時に、酸素と水素の混合物でもある。それを考えずに闇雲に水を掛ければ逆効果になる。
『閉ざされた扉は地獄への入り口』これは火事場にておこる二次的災害、『バックドラフト』を意味する。これは火事の際に密閉空間において不完全燃焼が発生し、それが原因で一酸化炭素が発生し、一酸化炭素に酸素が入り込んで爆発する、非常に危険な現象だ。
『頭が高ければ暴君が殺す』これは姿勢を低くしなければ煙などで喉を焼かれて死ぬ事を意味する。
『胸一杯に火を吸えば声を喪う』これもそうだ。舞い上がった火を吸い込んでしまえば喉を焼かれて呼吸が出来ずに死ぬ。
『天が焼ければ逃げるしか無い 小人は巨人に姿変える』これに関しては消火に関するものだ。
天井まで火が届いてしまえば最早初期消火の領域で無くなる。そこまで火が回ってしまえばあっという間に火が建物全体に回る為、消火しようという考えは捨てて、逃げる事だけ考えろ。という事だ。」
「………そうでしたか。申し訳ありません…………。」
シェリー君が少し項垂れる。
「気にする事は無い。どう考えた所で物騒な放火魔の歌にしか聞こえまい。
が、覚えておいて損は無い。ナイフや毒と違って、火はマッチ一本を大量虐殺の凶器にするのだから。」
「それは今、身を以て感じています。」
「君も急ぎたまえ。」
「解りました。」
炎の中、シェリー君は姿勢を先程よりも低くしながら、しかも速度を上げて、校舎を駆けて行った。
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