並行トリック


覚えているかね?私がシェリー君の眠った後で両手にペンを持っての複製・・をしていたことを。

何を複製したか?シェリー君の手の中の教科書は本物。

ならば、解るだろう?

あの燃えた本は私が紙と草木を利用して作り上げた精巧な偽物だ。

いやぁ、本の後半部分以外は文字から何から全てが本物と全く同じにするのには少し手間取った。

草木の染料が油を含んでいたお陰でよく燃える様にも出来たし、完成度としては中々の出来だった。

こうしてできた偽物は数日前に本物とすり替え、シェリー君の学業の一助となっていた訳だ。

学期前半だったことも有り、教科書後半部分は使わないからバレる事は無かった。


あぁ、最高の出来だった。しかし………


惜しむべくはそれを燃やしてしまった事だけだ!!!!!!!








「つまり………だ。君が数日間使っていたのは精巧な私特製の偽教科書だった訳だ。」

「いえ、それならば別に問題は無いのです。最早驚きません。教授ですから。

問題なのはこれです!」

そう言ってシェリー君は教科書の本文……では無く、欄外に書かれたシェリー君のメモ書きだった。

「ここ数日の教科書が教授の作った偽物だったというのなら、このメモ書きは一体どうやって、何時書いたというのですか⁉」

そう、シェリー君の教科書にはメモ書きが書き記されていた。

それも、ノートもかくやというレベルでだ。

「たとえ書いた内容を覚えていたにしても、さっき迄私が使っていた、燃やされた偽物に書いたものまでここには欠落無く、完全に書き記されています。

そして、今の今まで、この教科書にメモを書く暇は有りませんでした。

しかし、このメモは全て私が書いたもの。一体どうやって⁉⁉⁉⁉」

人が驚く様とは実に気分が良い。

だが、惜しむべくはシェリー君には察して貰いたかった。

「落ち着きたまえ。

先ず、これを書いた時期だが………自分で考えてみたまえ。」

何事も、教わるだけでなく、自分で考えようと考えられる事は大事だ。

たとえ自分で空を飛べても、翼を動かさずに巣に籠っていては永遠にその翼は風を知らず、自分は空の高さ、風の冷たさ、危険を知らないまま死んで行ってしまう。

「この教科書は少なくとも数日の間は使われていなかった。

少なくとも今日の朝までの再現は出来る。

しかし、今日書いた分は決して再現出来ない。

これを手にしたのは先程宿舎に戻って荷物を取った時。それまでの間、私は触れていなかった。

トレーシングペーパーの様な方法は使えない。しかし、確実に今日、先程まで書いたメモまでここにはある………!まさか!」

シェリー君が有り得ないものでも見る様にこちらを見る。

如何やら正解に辿り着いたようだ。

「そう、答えは、『この教科書(本物)と偽物をすり替えた時には既に本物にメモが書き加えてあった。』だ。」

シェリー君は実直に私の言った事をメモに残す。

ならば予め自分が授業中に解説する内容をメモにしておき、後でシェリー君が同じ内容を書く様に仕向ければ良い。

余白スペースの大きさ、シェリー君の書く文字サイズ、私の話す内容、シェリー君の筆跡。それだけ解れば十二分に再現が可能だった。


このトリックで重要なのは、シェリー君のメモがオリジナルではなく、私の書いたメモがオリジナルであるという発想の転換が出来るか否かに懸かっていた。

「そうは言っても教授、角度から筆跡から何から真似をするだなんて…………無茶苦茶にも程が有ります!

教授、教授の居た場所に魔法のような技術が無かったなんて嘘です!

多分、教授が居た世界は、こんな世界よりもっと恐ろしい、魔法では太刀打ち出来ない………何かが有った筈です。」

「シェリー君も直に出来るさ。これは魔法より簡単さ。」

「無茶です!」


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