パンドラ

ポタ ポタ  ポタポタ………

水の滴る音だけが個室の中から聞こえる。

「ハハハ」「オッホッホッホ」

二人共堪えているが笑い声が漏れる。

それもそうだ。こんな愉快なことが有るだろうか?

二人は勝負に負けたかもしれない。しかし、心は私と一緒。

目障りなアイツが酷い目に遭うなんてこれほど愉快痛快な事は無い。

「フフ……………」

私も笑いがこみ上げてくる。

「フフ、フフフフフフフフフフフフ………………フフフフフフフフフフフフフフフフ!」

さぁ、出ていらっしゃい。濡れ鼠になったその無様な姿を嗤ってあげる。

ポタ  ポタ       ポタ…………………………

雫の音が止んだ。

ガタン

扉が開き、中から出て来た。

「ハハハハハハハハハハハハハ」

「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ」

「フフ、フフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

笑い声が御手洗いに響き渡る。

さぁ、どんな顔をしているの?

どんな気持ち?

私達にされてどう思った?

まぁ、私達には関係無いけど。




「随分と楽しそうですね。何か、良い事でもありましたか?」




「ハハハハ…………ハ?」

「オーッホッホ……ホェ?」

「フフ、フ?」

困惑と疑問と恐怖と戦慄と………兎に角『!』と『?』が頭を駆け巡った。

声の主は聞いてわかる様にミス=フィアレディー。

その声は後ろから飛んで来た訳では無い。

目の前の個室の扉から。

私が今・・・水を投げ込んだ所か・・・・・・・・・ら声の主が出て来た・・・・・・・・・

「あなた?『淑女たるもの使用中の御手洗いに水を放り込むべし』なんてマナー、一体何処のどなたから学んだのでしょうか?」

水飛沫一つ無い服を纏った圧倒的上位存在が問う。

言葉遣いこそ丁寧だが、激しくお怒りなのは目を瞑っていても解る。


刀の様に鋭い眼光。

一本の棒の様に真っ直ぐな背筋。

隙の無い身のこなし。


その全てが私達に恐怖を与えた。

「扉の外から騒がしい声が聞こえたかと思えば場違いな雨。

幸い魔法が間に合いましたが、一体これは如何いう事でしょうか?説明なさい。

いえ、この場で話すのも何です。三人共・・・、場所を変えます。職員棟に付いてきなさい。」

死刑宣告が下された。

後ろの2人から恨みがましい視線が送られる。

「後ろの2人は何を見ているのでしょうか?

まさか自分は何もやっていないとでも?

目の前で愚かな事をしている人間を止めない、それを一緒になって嗤うあなた達には人を睨む権利など有りませんよ。」

私には権利が有るとでも言う様に、眼光が更に鋭さを増す。

「来なさい。」


「「「はい。」」」

死刑囚は三人、静かに死神に連れられて行った。

御手洗いには誰も居なくなった。



ガチャ

扉を開けて出て来たシェリー=モリアーティーを除いて。

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