ミス=レッドライン
この世界の授業は単純すぎる。そして、非合理的過ぎる。
このまま行けばシェリー君が卒業するまでにこの学園で得られる知識の量は、私の知り得る知識の約0.0000001798514%程度にしかならない。
しかも、得る物は実用に耐えないものばかりである。
更に言えば、学ぶ者達の意識にも問題が有る。
この学園での授業は座席指定が無い。
そして、シェリー君は何時だって最前列で授業を受ける。
訳を聞いた。察しは付いたが………ね。
「授業後に解らない事が有った場合、教師の方々は授業後に質問を受けてくれるのです。
ですが、後方の席に居た場合………その………。」
シェリー君は言葉を濁すが、要は皆がシェリー君の邪魔をしたいが為に、どうでもいい質問をして時間を潰しに行くのだろう。
浅ましいかな小娘共よ。
そして、浅ましいのはこれだけでは済まなかった。
ポン
シェリー君の背後から丸めた紙が飛んで来た。
投げたのは教室中央に居る、顔がよく似た三人組の小娘達。
クスクスと笑いながらシェリー君の背中を指差す。
…………この授業は確か薬草学だった筈だが?丸めた紙に薬効は無いぞ。
ポンポンと三門の砲台から飛んでくる砲弾を意にも介さずシェリー君はペンを走らせる。
この手の攻撃は殺傷力こそ無いが、『他からの害を加えられている』という事実で応えるものが有る。
教師は三人組のやっている事を気付いていながらそれに注意をする事は無い。どころかシェリー君の後ろに紙クズが出来るのを見て御満悦の様子だ。
他の生徒はシェリー君の背中に当たる度にクスクスと笑う。
味方はこの空間に居ないというのが目に見えて解る。否、『この空間には敵しか居ない』が相応しいか…………。
全く………愚かしい事この上ない。
「………………………………………………」
シェリー君は無言で黒板と机の上を交互に見てはペンを走らせていた。
その顔からは、『とても学びが楽しい』という感情は読み取れなかった。
それを見て、教師は嫌な顔をし、三人組は反応の無いシェリー君を見て顔をしかめた。
授業終了の鐘が鳴る。
砲撃が止む。
シェリー君がノートを掴んで席を立つ。
完全に先手を打った。が、
「ミス=モリアーティー?あなた何をしようとしていらっしゃるのかしら?」
後ろから声が飛んで来た。
声の主は顔の似た三人組の一人。その中でも一番背の大きい輩だった。
「学び舎の床をゴミでそんなに散らかして、掃除という言葉を御存じかしら?」
真ん中の大きさがわざとらしい大きさの声で教室中に声を響かせる。
「お姉様、お可哀そうですわ。下劣な種類のものにとって地面のゴミは自分達と同類。
それを片付けろだなんて………フフッ、フフフフフフフフ。」
口を覆って笑ってはいるが、品性はどうやら過去に落としてきたようだ。
「何より早く片付けなさい。私達はアナタと違って汚いゴミなんて同じ空間に在ってはいけない、高貴な生まれでしてよ。オーッホッホッホッホ!」
自称高貴な生まれの小娘(大)が笑う。
「低能が幾ら足掻いた所で所詮は低能止まり。学びなんて高貴な事は私達のすべき事。
疾く床に這いつくばって綺麗になさい。ハハハハハハ。」
小娘(小)が地面を指差して笑う。
「あぁ、舐めなくてよろしいですよ。この学園は綺麗。あなたは汚い。知っていまして?フフッ、フフフフ。」
小娘(中)は何を言っているのだ?
「あら、ならばこの場で一番汚いあれを先ず先に片付けなくてはいけませんわね。オーッホッホッホ!」
「全く、誰か片付けて下さいませんでしょうか?フフッ、フフフフフフ。」
「一番良いのはゴミが自発的に消えてくれることですよお姉さま方。ハハハハハハハ。」
『笑う女性は美しい』と言う男は幾らでも居る。
が、これを見ても美しいと言える輩は三千世界の何処にも居るまい。
大中小の小娘がそれぞれ別の醜い笑い声をシェリー君に向ける。
「申し訳ありません。ミス=レッドラインの方々。今、片付けますね。」
そう言って自分が捨ててもいないゴミをシェリー君は拾い始めた。
私は、決めた。
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娘(大)…ホ
娘(中)…フ
娘(小)…ハ
笑い声が「ハ・フ・ホ」のどれかで動作主が解る様になっています。
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