後日談、そして帰り道、轍を遡る。


それからの事?後日談?大した事は無い。

締め上げた賊を電気信号で操って街道沿いへと歩かせて捨てた後、恐れをなした賊が尻尾を撒いて逃げていったのを確認した後、シェリー君と私は村へと戻った。

偽物の村では無く、本物の村へ。

泥と草木で隠された本物の村。そこは正しく本物の村だった。

家の窓と扉はピッタリと閉ざされて人の気配は無い……と思われるだろう。

実際は、中に人が潜んでいるのだがね。

大きな声で村一杯に響く様にそう言った。

「皆さん、終わりました。『モグラは陽の元へ・・・・・・・・』。」

あらかじめ用意しておいた合言葉を村に響かせる。

無音。そして直にカタカタ、ガタガタという家の窓や扉が風で揺れる様な音が聞こえ、その音は強さを増し、音が響き渡り……………………


「「「「「「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」」」」」」

決壊したダムの様に家の中から人が我先にと出て来た。

知らない人間が居れば腰を抜かすか引っ繰り返っていただろう。

皆が無理難題困難を相手に諦めず、奮闘した少女へ最大限の称賛と讃美の嵐を叩きつけた。




それからは村の復興へとシェリー君は進んで参加していった。

ジヘンの村人は自分達の村へ戻るか否かで揉めたが、そもそもあの一帯も賊の巣窟となっていた事、この村の人々と牢という過酷な環境に身を置かれていた事、その元凶を協力して撃退した(撃退劇の功労は大半がシェリー君一人の物だと思うのだが)もあり、この村に一緒に住む事となった。

幸い、山の洞窟には使えるものが有ったし、虚構の村も整備すれば使えないことも無い。

そういう訳で新たな村造りの為に『社長モリアーティー』がまたしても八面六臂、獅子奮迅、面目躍如の大活躍となった。

こうして、シェリー=モリアーティーの夏休みは過ぎて行った。





そうして、夏休みの大半が過ぎ、シェリー君は学園地獄へと戻る時が来た。

「気を付けて行っておいで。」「辛い時は帰って来るんだよ。」「無理はしないでね。」

各々それなりに勝手な事を言いながら名残惜しそうにシェリー君に声を掛ける。

「えぇ、では、行ってきます。」

重い荷物を引き摺って、シェリー君はあの地獄学校へと戻っていった。

こうして、シェリー君の激動の夏休みが終わり、来た道を遡っていった。

「やれやれ、リラックスは出来なくて残念だったね。」

自由研究で村を我が物顔で闊歩していた連中を追い出し、村を統合&復興させるなんて誰がやろうか?

「いえ、良かったです。」

「その心は?」

「お陰で困っていた皆様に気付かず、皆様を見捨てて後悔するという最悪の事態を避ける事が出来ました。

最善は皆さんをそもそもあんな目に合わせなかったことですが……次善ではありました。

有り難う御座います。教授のお陰で悲劇を喰い止める事が出来ました。」

「私は何もしていないさ。

シェリー君が足掻き、理不尽に負けじと立ち向かう姿に私は感化されただけ。

それだけだ。

そして、これから起こる事もシェリー君。君の起こした出来事だ。」

「?」

私の言っていることが解らないと言いたげに首を傾げる。


カラカラカラカラカラカラカラカラ………

後ろから軽やかな馬車の音が聞こえる。

「アンタ、そんな所で何してんだい?ここいらは危ないよ。」

「荷物、重くありやせんか?」

「丁度俺達ぃ、改良馬車の試運転中で、アールブルー学園迄行く予定なんだがぁ、一緒に乗らねぇかぁよぉ?」

馬車から覗いたのは六つの瞳。

「……………えぇ、是非。」

涙を浮かべた眼で手を伸ばした。





夏休みはこれでお仕舞だ。

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