熊と蛇と少女
「グゥゥゥゥゥゥルルルルルルルルルルル……………」
シェリー君が今まで居た場所に巨大熊が居た。
熊………だと思う。
確証が持てなくなるほどの大きさだった。
何故なら、その熊は6mを超える巨体を持っていたのだから。
「何ガキ一匹に良い様にされてんだよぉ⁉」
虚構の村の入り口から男が叫んだ。
真っ黒な熊の毛皮で出来た服を纏った髭面の男だった。
後ろには泥沼に嵌った男達と似た様な格好をした男達がゾロゾロやって来た。
「あぁ、お前か?俺達の奴隷盗って天井落とした馬鹿はよぉ⁉」
その一言で、痛みで顔をしかめていたシェリー君はハッとなった。
ソイツの正体に気付いた。
そう、シェリー君が天井を落とした後、逆サイドの入り口から回り道して来た賊がここに来た。
総勢200人。
賊の総数には171名足りない。
そいつ等は落とされた天井を片付けてここまで来るとシェリー君は踏んでいた。
そこまでは良い。が、シェリー君はその171名が来るまでに
それが間違いだった。
あの人口の洞窟を全て作るには村人総勢+賊総勢の力を合わせても数年掛かる。
ここに賊が来たのは一月程度前、計算が合わない。
その答えは村に来る前、そして今、目の前に転がっていた。
6m級の巨大熊。あれが洞窟作りに手を貸したとなれば、更に言えば、もう一匹くらいの怪物が居れば、この短期間であの規模の人工洞窟製作は現実的になる。
そう、もう一匹。熊ともう一匹…………だ。
髭面の男は後ろから何かを突き従えて来ていた。
丸太の様な胴体に木の葉の様な模様。鋭く、ねちっこい目を持ち、長く二股に分かれた舌を出しながらこちらを見ていた。
15m級の大蛇だった。
熊と蛇。その二匹があの洞窟の大半を作った奴等だろう。
そして、その二匹が崩れた洞窟を開通させて、今まさに助太刀に、シェリー君に報復を仕掛けに来たわけだ。
「お前か?俺達の仕事を邪魔した奴は?」
髭面は蛇の顎を撫でながらシェリー君にそう言った。
「あなた達の仕事の邪魔をしたのではありません……………囚われていた皆さんを助け出しただけです。
邪魔をしたのはあなた達……」「ウルセェそんなのはどうでもいい!要はお前が邪魔した訳だ!要は俺達の邪魔者だ、ならお前は死ね。
奴隷共の場所を吐いて死ね。」
蛇を撫でていた手をシェリー君に向ける。
それに反応する様に熊と蛇がシェリー君を取り囲み始めた。
はっきり言おう。シェリー君には勝ち目がない。
シェリー君の予定では蛇や熊は居らず、洞窟から出て来る賊はもう少し後に来る筈だった。
泥沼で寝ている連中を片付けた後で、村人総出で残りを迎え撃つ手を打つ筈だった
要は、今、シェリー君には成す術が無く、全くの予想外の巨大熊と大蛇に包囲されている。
「どうするかね?シェリー君。」
茶化したりはしない。ここから先に進むという事は、シェリー君にとっては文字通り決死である。
「如何にかします。さもなくば、村の人々が危険に曝されます。
幸い、未だ魔法は使えますし、油断もしています。」
険しい目をしながら背中の痛みを押して立ち上がる。
「そうか。」
私はシェリー君が足掻く様を傍観する事にした。
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