後半の後半 開幕


さて、どうするか?

シェリー君は眠ったまま、二つの村の人間はガヤガヤガヤガヤするだけで何も考えていない。

ここに居る奴等には幾つかの選択肢が有る。


1.このまま村でガヤガヤしている。

そんな事をしている内に賊共がトンネル開通をして、報復に来て、またしても働かされる。最悪殺される。

2.必死に抵抗する。

しかし、純粋に武力で負けて1.同様の目に遭う。

3.この村を捨てて逃げる。

しかし、逃げてもアテは無いし、追手が来た場合最終的に1.同様の目に遭う。

4.この地域の有力者に頼んで賊の討伐を乞う。

時間が無い。そもそも、そんな事が出来るのであれば、既に誰かが同じ事を実行している。

そして、この件に関しての解はシェリー君に聞いたことが有る。『この村は小さく、大した産業や生産性も無い為、ある程度の税は徴収されますが、その恩恵は無い。』と。

  要は、この地域の領主はここまでわざわざ来て『賊を討伐しよう。』などと考える奇特な輩ではない。

  結論としては、最終的に1.と同様に目に遭う。


要はこのままでは死を待つだけ、負け犬ライフが続くだけ……犬死エンドで終わるだけ。

村人だけならば・・・・・・・これだけの選択肢しかしない。

が、シェリー君なら・・・・・・・こんな選択肢、5.の選択肢を提示するだろう。否、『だろう』という予想では無く、確定だ。シェリー君は『提示する。』


5.皆で力を合わせて賊を撃退する。誰も殺さず、殺させず、賊を退去させる。


これが事実上最適解だろう。

この村の人間は虐げられる事、搾取される事に慣れ過ぎている。

村長がここにやって来た賊に頭を下げてされるがままになっていた様子を見れば解るだろう?

たとえここで私が本気で賊を壊滅させたところで、うら若き少女に人殺しを強いる連中と、それを怒らず、止めようともしない輩達のままであれば遠からず他の誰かに搾取されるだけだ。

この機会に自分達で考え、他人任せでなく、自分の力で歩く力を得るべきだ。

『それは戦争しろ。』とか、『相手を脅せ、威圧せよ。』とか言う訳ではない。

智慧を用いて困難を排せ。という事だ。

少女に「人を殺せ」と命じる輩には解るまいが、世の中には傷一つ負わせずに脅威を遠ざける手立てが有る。


さぁて………もうそろそろ眠り姫が起き出す頃だろう。

「シェリー君、起きたまえ、我々の闘いはこれからだ。」

終わりを想起させられる、縁起でもない起こし方をする。

「教………

ハッ!ここは一体⁉皆さんは如何なさいましたか⁉」


フッ!


肉体の主導権を返した途端、辺りを見回して混乱を露わにする。

「落ち着き給え、君の奮闘の甲斐あってケガ人は0だ。

が、賊の足止めには成功したが、数日と経たずにまたしても襲撃が来るぞ。

どうする?村人は諦めて、夏休み後半はどこかの野原で野宿でもしながら宿舎の再建を待つかね?」

『シェリー君だけが逃げる』という、存在しえない選択肢をぶつけてみる。

「教授?」

針の様な視線を向けられる。

ジョークとしてはブラック過ぎたな………。

「あぁ、冗談だ。

どうするかね?この村人を、この村を、君は如何したい?」

選択肢は5つ。単純な確率論では20%だ。


「決まっています。

皆さんで協力して山賊の方々には解散願います。

誰も殺さず、誰も殺させず、私は、いえ、私達は自分達だけでなく相手の方も全員守ります!」

20%はあくまで、全選択肢が一定確率で当たる場合にのみ成り立つ解。

シェリー君の傾向さえ知っていれば、100%的中させられる。


「『選択肢5.』。矢張りな。

ではシェリー君、頑張りたまえ。」

「?」

夏休み後編の更に後編。二つの村と山賊の闘いの始まりだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る