潜入ミッション開始
追手を撒く、目撃者に無自覚に偽証をさせる、情報操作を行う、潜入して情報を得る………
変装には幾つもの使い道が有る。
「見よ、これがモリアーティーの変装術だ。」
シェリー君と村長は唖然としていた。
村長は目の前に居る者に驚いた。
シェリー君は手にしている私物の手鏡に映った自分自身だった者に驚いた。
「はぁぁぁぁぁ………学園ではこんな事まで教えてくれるのかぁ………………………」
「これは…………………私、で、良いん、ですよ…………ね?」
私が一通り怒った後、肉体を借りて行ったことは幾つか有る。
先ず、村長に頼んで目を回している小僧の身に着けている物を剥いで貰った。
次に、シェリー君の荷物から化粧道具を取り出した。
そして、肉体主導権をシェリー君に返し、村長と私、そして小僧を外へ追い出し、シェリー君には小僧から剥いだ物を全て着て貰った。
最後に、小僧の顔をシェリー君の顔の上に
まぁ、要は化粧を施してシェリー君の顔を小僧の顔に
『似せた』ではなく、『変えた』。
今、村長とシェリー君が見ているのは、小僧の姿をしたシェリー君だった。
「これが私の本気。たとえ親であろうと子であろうと、恋人であろうと自分であろうとだますことが出来る変装。」
大男を縮めるのは厄介だが、シェリー君の体格であれば大概は化けられる。
「勉強に成ります!」
小僧が可憐な少女の声と目で熱心にそう言う。
「おっと、後で自分でも出来るようになって貰うよ。
あと、声と目には気を付けたまえ。変装はあくまで顔や体の形だけを模倣するものだ。
目の色や声は薬品で変化させるか、見せない、はたまた変声術を用いるしかない。
変装と変声、更には観察力を用いた変装対象者の口癖や動き方の特徴の模倣。その三つを同時に使用する事でモリアーティー変装術は初めて効果を発揮する。」
ただただ外見を化粧で真似た程度では変装というより、仮装に近い。
利き手はどちらか?
相手の声はどんな声だったか?
相手の喋り方、イントネーションはどうか?
手癖足癖はどうか?
話す内容の傾向は?そもそも何を話していたか?
好物は?
人間関係は?
趣味趣向は…………?
それら全てを調べ上げ、分析し、自分という存在に相手を上書きする事で初めてモリアーティー変装術はなされる。
「では、行こう。潜入調査だ。」
「で、ですが、どちらに?この人は一体何処から来たのでしょうか?
そう言えばそれを忘れていました!」
シェリー君が今になって慌て始める。
全く、冴えにムラが有ると言うのも困ったものだ。
「冷静に考えたまえシェリー君、ここは君の地元だろう?」
「はい。」
「村長から訊く限り、相手は最低数十人の山賊だ。」
「はい。」
「更にこの村の若者を全て攫って行った。」
「………!つまり、潜伏先は、『最低数十人を収容できるだけのキャパシティーの有る場所』に限られると、そう言う事ですか!」
「その通り、ここに来る前に丘から見た景色から分析するにテントやキャラバンではない。
この湿地帯だ。そんなもの、大規模に広げられまい。そして、考えられるとしたら…………」
「「この先の山(ですね!)」」
「では、行くとしよう。」
「解りました。」
そう言って村の奥、山へ向けて歩を進めてこうとして………
「シェリーちゃん!何処へ行く気だい⁉」
村長に止められた。
「少し、外に出て来ます。直ぐに帰って来ますから、心配しないで下さい。」
然程本気にも見えない村長の静止を振り切り、私達は山賊の居るであろう山へと向かっていった。
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