かいてきなたび 23
馬車が猛スピードのまま暫く走り続けた所で、後ろを確認する。
無論、確認の必要性など無い程度にはしておいた。
が、シェリー君が真似をして、こういった確認行為を怠る様になってしまっては悪影響というもの。
予想通り、人の影も形も無い。
当然だ。
「取り敢えず、大丈夫みたいだ!」
「分かったよぉ、じゃぁ、すこーしスピードを落とさせてもらうよぉ。」
そう言って馬車の速度が落ちて行った。
そうしてガタゴトと走る馬車の中、赤毛女の怒りが爆ぜる。
「全く!もう二度とこんな無茶するんじゃ無いよ!」
「すいませんでした。」
「まぁまぁ、姐さん。
それでも、シェリーちゃんのお陰で俺達は無事、荷物も…無事でしたし。
結果オーライ。怒るのは後にして褒めてあげては如何ですかい?」
大男が真っ赤になって怒る赤毛女をなだめすかす。
「何言ってんだい!ここでアタシらが怒らなきゃシェリーは同じ事が有った時に又無茶しちまうだろ!
逃げなくなっちまうだろ!
ここでアタシらが怒らないで誰が怒るんだい⁉」
「姐さん……」
「スカーリさん…………」
大男とシェリー君が黙りこくる。
赤毛女の考えは最もだ。『あんな無茶をした輩を怒る』というのは年長者として有るべき姿だろう。
大概の場合は正しい。
対する私はシェリー君を危険に敢えて曝して無茶をさせている。
大概の場合は袋叩きに遭うだろう。
しかし、赤毛女は知らない。
シェリー君がいつも居る
例えシェリー君を多少傷付ける事をしても、私がやるべきこと。
それは、あの
「はぁ………ここまで来ればいいだろう。休憩するよ!」
「ヘイ!」
「ふ~~……やっとだぁ………。」
馬車から降りて、三人が肩で息をしていた。
気が抜けたのだろう。警戒心こそ有るが、大したものでは無い。
「アナタも有難う。一杯走って疲れたでしょう?ほら………たんとお飲み。」
対するシェリー君はもう既に立て直し、馬に水をやっていた。
「ブルルルルルル!」
まだまだ余力が有るといった様子だ。
「今の内に馬車の確認をしておきたまえ。」
「解りました。」
そう言ってシェリー君は馬車の中へと入っていった。
荷台の中は樽がゴチャゴチャと倒れ、転がり、時に中身が撒き散らされ、広がり、泥棒に入られた様になっていた。
林檎、胡桃、図鑑で見た即効性の薬草、野菜、ジャガイモ、干し肉、建材、石、粉………………掃除のし甲斐が有りそうだ。
「あれ………?」
天井を見たシェリー君が有ることに気付いた。
「皆さーん!荷台の天井、ほつれているのですが、直してよいでしょうかー?」
幌の上部中央の縫い目が乱暴に千切られた様になっていた。
幌が二重になっているのか、光は射していない。
「……あぁ、別にそれは放っておいて良いから。」
「こっちに来て飯にしやしょう。林檎、持って来て良いですぜ。」
「あぁー………そうそう、熊公も連れて来いよぉ。」
「?熊……………?」
シェリー君が首を傾げた途端。
ガタガタガタンガタンガタンガタン!
樽の一つが動き出し、倒れた。
「ガゥッ!」
中から出てきたのは小熊だった。
「あら、そこに居たの?」
「あぁ、さっきのゴタゴタの時にね。暴れて貰っちゃ困るからね。少し入れさせて貰ったのさ。御免よ。」
赤毛女がそう言って熊を回収に来た。
「ガゥ、ガゥガゥガゥ ガゥッ!」
拗ねた様に熊が爪を突き立てた。
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