かいてきなたび 22

「戻りました!」

馬車は混乱の中でも無事であった。

周囲に瓦礫や廃材、砂嚢のようなモノや石が転がっているが、馬は無事、荷台も無事、幌に傷一つさえ無い。

馬車前方に至っては掃除でもされたかのように馬車が通れる程に綺麗だった。

まぁ、当然だ。

建物が倒壊する際、ここの周囲三方が廃墟と瓦礫で壁になる様にしておいた。

ただでさえ混乱と土埃でまともに周囲が見えない状態に加えて廃墟の壁。

馬車の存在など気にしている余裕も無い上、見つける事も無いだろう。


「シェリー!」

「大丈夫ですかぃ?」

「良かった!戻って来たぁよぉ。」


馬車から私を見つけて飛び出しながら泣き出す三人組。

そこには嘘は無い。

「ご心配お掛けしました。

急いで!逃げましょう!」

その一言を聞き、三人は準備完了とばかりに大男と赤毛女が私を馬車に担ぎ上げ、小男が馬車を走らせた。

「イィ~~~~~~ン!」

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…………

ゴトンゴトンガタンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!!!!

いつもよりも明らかに速い蹄鉄の音と馬車の車輪の音が荒々しく響き渡る。

荷台の中の樽がゴトゴトガタンと音を立てて飛び跳ねる。

薄まる土埃と悲鳴の群れを引き裂くように馬車は駆け抜け、その場を去って行った。





「本当に大丈夫かい⁉」「怪我ァ無ェですかい⁉⁉」

荷台に乗せられ、廃墟を抜けて直ぐに目の前の二人がそう尋ねる。

動揺が凄まじい。

「気分悪いとかねぇかぁよぉ???」

御者席の小男も動揺が抑えきれていない。

しかし、後ろは我々が見ているのだから、運転時には前を向いて、事故の無い様に頼みたいものだ。


フッ


ここからは少しの間、シェリー君に任せよう。

「……………………こ…………怖かったでずぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~‼」

「馬鹿なことして!しんっ配したんだからね!」

「急に土埃で見えなくなって、何かと思えば……」

シェリー君が腰を抜かしてその場で泣き出した。

それを怒ったり泣いたりしながら他の二人が支えるように抱擁する。

イケるとは思っていたが、流石に目の前でアレをやられては矢張り厳しかったな。

まぁ、取り敢えずトラウマにならなかったから丁度良いだろう。

今はそれでも良い。

直にアレが自分一人で出来るようになれば良い。

自分一人で出来るようになれば構わない。

やって貰う。

ガタゴトガタゴト。馬車は大きく揺れながら道を行く。

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