かいてきなたび 19
土煙の中でゆっくりと、音を立てずに歩き出す。
落ち着いて目を凝らせば、陽光に照らされた影で周囲を把握することが出来る。
「シェリー君に教えておこう。
人間は集団になることで非常に大きな、単一の人間が同数でバラバラに動くよりも圧倒的な力を発揮する。
が、しかし、全ての物事には長所と短所が存在する。
そんなうまいだけの話ではない。
集団になる事で、人間は個々の判断力が低下する。
集団になることで『他の人が考えてくれる。』という油断や怠慢が起きる。
例えば、二人で大きな荷物を持つより4人で持った方が重く感じる事が有る。これは、人数が2倍になることで責任が半分になる為だ。
例えば、火事や事件が起こった時、野次馬が幾人も居た場合、警察への通報が遅れる事が有る。これは、『自分以外の誰かがやってくれるだろう。』という油断が起きるからだ。」
「成程…集団になると他の人を頼りがちになってしまう。という事ですね。」
「そんな所だ。
で、今は統率が取れなくなり、判断力が鈍った状態。しかし、集団である事には変わりない。
そこで、もう一つ。集団の弱点は今言った判断力の低下意外に存在する。何だと思うかね?」
土埃の中、廃墟に足を取られない様に歩き、手近な賊の背後に、音も無く立つ。
「…………感情の共有…………伝染………でしょうか…………?」
「正解だ。例えば、集団の中、一人がパニックを起こしたとしよう。
そのパニックは周囲の人間をパニックにさせ、そのパニックは連鎖的に人々をパニックに陥れ………………………集団全体にパニックが蔓延していく。」
タン
賊の背中を軽く小突く。
相手が振り向く前に、直ぐに身を引いて土埃に身を隠す。
「だ………誰だぁ⁉」
背後からいきなり背中を小突かれて不安状態の賊がピクッと痙攣したかと思うと、振り向きざまに短剣を振り回した。
しかし、辺りを見渡しても背中を叩いた犯人の姿形はもうない。
正体の無い相手に想像を巡らせ、不安に駆られる賊を放置して近くに居たもう一人の元に足音を立てずに向かう。
スッ
音も無く足を払う。
「うぉっ……」
賊が体勢を崩し、崩れた廃材の方へとよろけ………
ザクッ
折れて尖った木材へと太ももを突き刺した。
「アァァァッ!クソ!なんだ⁉」
反射的に、
木材と反対方向に仰け反り………
ドッ
先程背中を小突いた男とぶつかる。
「誰だぁ!」
「うぉ!」
ガキィン!
パニックを起こした方の男の凶行を辛うじて怪我した男が持っていた剣で止める。
「何しやがる⁉」
「うるせぇ、誰だ⁉俺はやられないぞ!」
「テメ……さっきの奴はお前か!」
賊が仲間割れを始める中、私はその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます