真夜中の墓標
フッ
初回はサービス。憑依して初撃を躱す。
しかし、以後は気付いてほしいものだ。
影なんて初歩中の初歩。これに気付けなければ生き残れない。
ガン!
鉄剣が倉庫の地面を揺らす。
倉庫の備品が揺れる。
あぁあ、危ないったら無い。
「教授⁉⁉⁉」
パニックを起こしている。
「覆面で顔を隠した謎の暴漢……体格からして暴嬢?とでも言えばいいか?が現れた。
さぁ、暴力を振るう事無く、殺ってみよう。」
「字が間違っていませんか⁉」
矢張り来た。
丁度良いタイミングだ。
「さぁ、
「如何やってですか⁉」
「考えたまえ。有るだろう?
わざわざ私が片付け方を指定して片づけさせた理由をもう忘れたのかね?」
「あ………」
「『基本その6:不意打ちの失敗=即撤退』それをしていない以上、勝てない相手ではない。だからと言って、『基本その8:油断しない=深層心理の油断と慢心を意味する。真に油断しない人間は常に警戒をする。』を忘れないように。
そして、『基本その9:パニックは最も危険な物の一つである。』冷静に殺るんだ。
『基本その5:闇雲な突進=自殺』解るかね?」
「はい……教授。」
「宜しい。君の手で、暴力を用いない、淑女らしい手法で始末を付けたまえ。」
暴嬢が鉄剣を振り回して迫る。
それを躱すシェリー君。
私は一つも手を貸していない。
彼女の能力100%。
相手はそれに対して二撃目を振り回す。
ガン!
相手が戦闘のド素人だという事が解る。
得物の長さを把握しきれていない。その所為で鉄剣を天井にぶつけた。
ガタガタッ
倉庫の物が音を立てて揺れる。
そろそろ不味いな。
「もう直ぐですね。出ます。」
及第点。
しかも中々高得点だ。
敢えて倉庫の奥の方に誘導して挑発する。
二撃目を躱されて向きになり、挙句挑発で直情的になったまま突進してくる。
シェリー君はそれをわざと地面を大きく踏み込んで躱す。
と、同時に。全力疾走して入り口を目指す。
それに一足遅れて暴嬢が追いかける。
ダンダンダンダン
倉庫内に足音が響き、備品が揺れる。
全力疾走したシェリー君は入り口に辿り着くと。
ガラガラ!
バン!
乱暴に扉を閉めた。
同時に
ガッシャーン!
ガラガラガラ!
倉庫内で凄まじい音が聞こえた。
倉庫内の整理の際、私はシェリー君に対して備品の整理方法に幾つかのオーダーを出していた。
ここは倉庫。
原則として入って来る人間は少ない。
つまり、ここに罠を仕掛けて置けば、任意の人間をより確実に始末することが出来る。
例えば、『脳筋の剣術教師を事故に見せかけて備品や棚の下敷きにすること』も出来る。
ちょっとやそっとでは瓦解せず、しかし、一定以上の衝撃を与えれば、人を効率的に潰す凶器に変貌する様に設計しておいた。
一回や二回でなく、何度も倉庫に入ってやっと凶器となる。
こうすれば、朝一で崩壊して私の所為で怪我をした。という証拠や文句の出る状況は無くなる。
筈だったのだが、
「やれやれ、予定が狂ってしまった。」
「…………こんな恐ろしい事に成るのですか?」
倉庫の扉を開けるとそこには散乱する備品が山となっていた。
本来は何度も足を運んでやっと作動させる筈のものだった。
それを直後に作動させる事となった所為で時限式の部分のギミックが面白みを失ってしまった。
わざわざ足を強く踏み込んでやるなんて…………全く、ナクッテ嬢にも困ったものだ。
「ナクッテ嬢は残念ながら生きているねぇ。」
「⁉⁉⁉ミス=ナークなのですか⁉⁉⁉」
気付いていなかったのかね?
「君の香水は私謹製。
他の人間から漂う訳が無い。
そして、君の香水は他者には使わせていない。今は割れて君さえ持っていない。
しかし、一人だけ、この匂いのする可能性のある人間が居る。」
今日、剣術の授業後、試しに香水を付け、香水瓶を逆さまにして撥ねた香水がたっぷり服に付いた人間が居た。
「それはここに埋まっているナクッテ嬢だけだ。」
木剣や砲丸が入り混じった無様な墓標に埋められたナクッテ嬢を見てそう言った。
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