片付けつつも並行する。

「よい…しょ!」


「あとはその木剣を仕舞えばセット完了。仕上げに掃除をしてお仕舞いだ。」


あれこれ散らかっていた道具を軽々持ち上げて、片付けていくシェリー君。


矢張り、シェリー君の身体能力は高い。


最初、私がアクロバット首吊り回避をした時も、夜中に宿舎の床を脆くしたときも、今日の剣術でも、憑依した体がよく動いて非常にやり易かった。


身体機能は十全。


剣術は私が来る前からやっていた筈なのに、目立った怪我が無いのはそういうことか。


恐らく、反射速度も速い部類に入ろう。






矢張り問題は、度胸と相手への怯えだな。




いくら肉体が優秀でも、それを動かす頭脳が思考停止をしていたら、宝の持ち腐れだ。




私はあくまで彼女の出来うる範囲でのみ動ける。


例え私が憑依して、『空飛ぶ乗り物』は作れても『何も無しに空を飛ぶこと』は出来ない。


要は、




ジェームズ=モリアーティーに出来る事



シェリー=モリアーティーに出来る事




と言って過言ではない。と言うことだ。


頭脳と冷静さが在れば彼女には私に匹敵出来る。


さぁ、彼女には如何にして成長して貰うか?








「……教授?」


!バレたか?


そんな筈は無い。私の表情は今、完全に何も考えていない様に見える筈。


「如何したのかね?」


「何か………匂いがしません?」


「匂い?私には今解らないが、君の香水の匂いでは無いのかね?」


先程のスペアの香水の匂いが残って……それにしてはおかしいな。


もう嗅覚が匂いに適応している筈だ。


「いえ……私の香水の匂いなのですが……ハニーレモンの方の匂いが………」


ん?成程。そう言う事か。


丁度良い。適度に練習してみよう。


今度は一緒に殺ってみましょう。と言ったところだ。




その前に。




「シェリー君、問題だ。」


「はい?」


「その香水の匂いがもし、幻臭で無いのなら、その理由は何かね?」


「理由………ですか?


えぇっと……私の身体に匂いが残っていた?」


可能性は否定できない。


しかし、


「では、何故君は今までその匂いに気付かなかったのかね?」


「……………風で匂いが流れていたから?」


「残念、倉庫窓が無く、風や匂いは流れない。匂いは充満する。


つまり、ハニーレモンの香りは君から漂って来たものでは無い。」


「それは………つまり?」


「ハニーレモン臭の生物がこの世界に居ない限り、ハニーレモンの香りをくっつけた誰かがこの近辺に居るという事だね。」


そう、例えば………


「後ろから迫る影の主とか。」


ランプと月光が彼女の影を地面に映し出す。


しかし、その影に重なる影がもう一つ。


細い何かを手にした人の影があった。

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