圧倒的

速度が25倍になっている。


そんな状況では直進しか出来ないは道理だ。


あと一回しか恐らく動けないのだろう。まぁ、そうなる様に転ばせたがね。


脳筋の持てる最善手を打ったと言える。






しかし、私はそれを嗤おう。




生徒に暴力を行使する許されざる者を。


自身の身の程を知らない愚者を。


そして、この私の策謀にそのまま引っ掛かり、それを力でねじ伏せられない中途半端な力しか持たない事を。












」ヴォベギアグガウァあアあがァ‼「








私の横を地面にキスをしながら滑っていく。


問題無い。死にはしないさ。


ただ少し、血塗れには成ったり、急所を射抜かれる痛みは有るだろうが………な。




地面で転げまわる脳筋の身体中には銃創の様なものが有った。


眉間から出血、鼻の下と喉には打撲痕、瞼は腫れ、全身のそこら中は服が小さく破けて血が出ていた。




「教授………………何を…………なさったのですか?」


シェリー君が不安と恐怖を抱いた声で訊ねる。


無理も無い。私が脳筋を倒すのに使ったのは実質肉体のたった一部分。


指先だけであったのだから。








何のことは無い。


迫って来る脳筋目掛けて、指で小石を弾いて当てただけだ。


小石はさっき剣嬢を目潰しで攻撃した時、ついでに拾っておいたものだ。


25倍速。


確かに速い。


攻撃を喰らえば無事では済まない。


いなすのも限界があろう。


が、しかし、それは同時に向こうも攻撃を喰らえば無事では済まず、向こうも回避が出来ない事を示す。


指で弾いただけの石ころは25倍速の威力が加算され、しかも反応速度がそのまま故に回避は不可能。






直接攻撃をすればこちらの腕は破壊される。それならば話は容易い。


こちらが触れずに攻撃をすれば良い。


飛び道具を用いればいいだけの話だ。












そんな訳で、小石礫を弾き、そこにわざわざ自分から突っ込んできた脳筋が急所にそれを見事命中させ、バランスを崩して無様に私の後ろで転がっているという訳だ。


「なぁに、心配無い。適度に急所に当てたが、死にはしていない。」


実際、今まさにフラフラになりながら立ち上がって来た。


急所を幾つか突かれ、脳震盪で視界は混ざった絵の具の様になっている筈だ。


最早100倍速だろうが音速だろうが関係無い。


脳筋は最早実戦で死んだも同然だ。


今の状態では抵抗も逃亡も不可能。止めを刺すか……………


」お前………オマエおまえオマエオマエお前お前お前オマエェェェッェェェェェ!「


裏返った酷い声でこちらに向かって来る。


木剣を振るが、1/10倍速の一撃。


」卑怯も……の、石を使う……なぞ…風上……………「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




コイツもか!


『実戦』訓練。


実戦を模した訓練ならばそれに相応しく何でも使うのがベスト!


卑怯もクソも無い。


背後から強襲、毒、目潰し、魔法………………何でも使って良い筈だ。


だからこちらは『君が殺す気だったこと』、『魔法の使用』には寛容に居よう。


僕も君を殺す気の手段を使ったからね。




それを卑怯?


虐めをしておきながら卑怯と宣うか。


ナクッテにしろ剣嬢にしろ脳筋にしろ自分達が濃縮した下水の様な下衆でありながら『卑怯』と宣うか!




虐めをしておきながら卑怯とはちゃんちゃらおかしい。










「ゆるさ…………ゆる……………ゴホォア。」


目の前の脳筋はフラフラになりながら吐血した。


矢張りな。


「キョ…教授!本当に何を⁉⁉」


「これは私ではない。脳筋の自爆だ。


冤罪は御免だよ。」


肉体を数十倍の速度で稼働させている。しかし、その反面、感覚神経等の強化はされていない。


おまけに血管が浮き出て、呼吸は荒く、全身が真っ赤。


どう考えても自身の肉体が数十倍の速度に耐え切れずに自壊している兆候だ。


そんな状況で肉体を酷使し続け、挙句転倒や打撲や裂傷になれば無事では済まないのは当然だというのに…………脳筋の使いこなせる代物ではそもそも無かったな。

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