モリアーティー剣術の恐ろしさは分析能力にある。


「タァ!!」


カキン


体罰教師が木剣を振るう。


全く、体罰しか能がないなら口など捨ててしまうがいい。


「セイ!」


カキーン!!


体罰なぞ言葉と頭の使えない阿呆の使う、学術的に非合理的と証明された愚行だ。


「ハッ」


ブン!


この程度を使って頭脳明晰、容姿端麗、才色兼備なぞ産み出せるか。


全く、片手で相手をしている少女の相手に成らないとは。


なんなら素手でも相手が出来ただろう。










当たらない。


さっきからパウワンの攻撃は私に擦ってもいない。


片手で持った木剣を使って猛攻を弾き飛ばし、いなし、時に避けていた。


「ウゥゥゥゥ!!」


パウワンの唸り声が人間ではなくまるで獣。


狂犬病のリスクが怖い。ハハハハハハハハハハハ!!


「黙って、動かず、喰らっていれば痛い目で済んだのに………小賢しく避け追って!


……………………宜しい!


余程死にたいらしいな。


折角手加減をしてやったのに……」


負け犬の遠吠えや負けフラグに聞こえる。


掠ってもいないのにどうやってこの私に当てる気かね?






そう思っていた。


しかし、次の瞬間、中々面白いことが起きた。






『肉体強化』


「ハッ!」


目の前の脳筋教師が膨張した。


手足が二回り程太くなり、顔に青筋が走る。


「ウンヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ!!!!!!!!!!!!!」


何が起こるのやら?


「教授!気をつけて下さい。魔法が来ます。」


「何だい?手から火でも出るのかね?」


それなら軌道予測を用いて回避が出来る。


「違います!肉体強化の魔法を使った魔法剣術です!


下手をしたら骨折では済まないかも!」


「説明をしてくれ。シェリー君。」


「はい、肉体強化の魔法は文字通り一時的に身体能力を強化する魔法です!


ミス=パウワンのそれはとても強力で身体能力を一時的に10倍にすることが出来るとか………。」


ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!


10倍か。つまり×10!


成程。それならば面白そうだ。


今までの状態では相手にならないとは思っていたが、10倍の手応えなら少しはヒヤリとしそうだ。




」イク ゾ「!




膨れ上がった肉体と青筋が浮き出た肉体。


顔も険しく面白いことになっている。




ガン!




地面が炸裂し、脳筋が飛んでくる。


到底私の知る人間の動きではない。


10倍の速度というのもあながち嘘では無いだろう。


」ウ゛ヲ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛「!!!


獣の叫び声を上げながら大振りの木剣を上段から振り下ろす。




ボン!




空気を殴りつける音が聞こえる。


回避は間に合ったが、危うく乙女の髪の毛を木剣で傷めるところだった。


アァ、危うい危うい。私に肉体は無いが、恐らく男だったのだろう。


変数の調整をウッカリ!忘れていたかもしれん!


うっかり乙女の命を痛めつけるところだった。






 」ヴァア「!


ブン!


大ぶりな横薙ぎ。


バックステップで回避する。




」ヴオン「!


下からの斬り上げが飛んでくる。


それを木剣の切っ先で突いて反動を利用して後ろに下がる。








「教授?大丈夫ですか⁉」


「あぁ、大丈夫だ。


………シェリー君は今のを見ていて如何思ったかね?」


確かに速度は速い。


恐らくシェリー君であったなら最初の一撃で吹き飛んでいただろう。


「はい。あの…さっきの方が怖かったかと……ハラハラした……というか…………」


「正解だ!及第点。


ここで『先程より剣の軌道が読みやすくなった』・『動きが単純になった』という答えが出て来たならば言う事は無かったのだが………まぁ、それはおいおい出来るようになれば良い。


では、問題だ。


何故、10倍速くなったことで君の言う恐怖や緊張感が無くなったのだろうか?」


「何故…ですか?」


「あぁ、速度が増加した。しかし、脅威は減少した。言い方を変えれば、『先程より剣の軌道が読みやすくなった』・『動きが単純になった』。


この理由は何故だろうか?


これらには因果関係が有ると仮定したとき、この現象は何故起きたのだろうか?」


「…………………」


考えているのだろうが、名案は浮かばない様だ。


「正解は、脳筋が自身の肉体に対応出来ていないからだ。」


「?どういうことですか?」


「君は言った。アレは『一時的に身体能力を強化する魔法』だと。


相手の肉体を見る限り、魔法によって筋肉や酸素の運搬等の一部身体機能を活性化するものだろう。


が、彼女を見てみろ。


肉体こそ肥大化しているが、呼吸は荒く、手足は若干震えている。


私が回避した時、脳筋の眼球は私を捉えていなかった。


あれは恐らく筋力のみを強化するものだ。身体能力と言っても目や耳は強化されていない。


つまり、肉体は速く動かせてもそれを制御する脳や外界を捉える感覚器官がそれに対応しきれていない。


要は身体の動きに順応出来ていない。


攻撃を当てようと思えば当てられる。」


「成程……つまり、10倍の速度であっても10倍の能力では無いと。」


「正解だ。


現に私は脳筋の攻撃をさっきから躱している。


更に、彼女が単調な10倍速で動くことで、こちらにもメリットが有る。」


「…………それは?」


「こちらが脳筋の軌道を読んで攻撃を仕掛ければ、自分から10倍速で突っ込んでくれるという事だ。」


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