密やかな仕上げ



 カチッ




 ガチャン




 カチッ




 鍵を開け、扉を閉め、鍵を閉める。


ガチャン


 開けたままだった窓を閉めたところでシェリー君から出て行く。










 フッ










 「お疲れ様、シェリー君。


 悪かったね。付き合わせてしまう形になって。」


 謝罪をする。


 「あ…………はい……………………。……………………???????????」


 首を傾げている。


 「おぉ、そうだった。


 解説をしなくてはならない。


 実験や数式の引き起こす現象を観測して、それが一体どうやって起こったのか知らねば観測の意義は少なくなる。」


 面白い実験は子どもの受けがいい。


しかし、何故それが起こったのか知らなければそれはただのショーだ。






 「では、解説してあげよう。


 なに。簡単さ。直ぐ済むし、別に難しいことなど何もしていない。


 君も近い将来出来るようになるさ。」










 「はい…………………。」


 「宜しい。


 では、シェリー君。私はこの件にどこに関与していたか、解るかね?


 ヒントは、『大まかに言えば2つある。』だ。」


 「先ず一つは……………先程やった、ベッドの下で消毒液を絞って床の隙間に流したことですか?」


 「正解だ。」
















 話は豚嬢が穴に嵌る前。


 部屋から出る前の事だ。
















 「………もうそろそろ時間だな………………………。


 シェリー君。良いかね?」


 昼食後、暫く勉強をしていた私に教授は話しかけて来たのです。


 「何でしょうか?」


 「君に、やって貰いたい事が有る。良いかね?」


 半透明で笑いながら教授は言いました。


 「私で良ければ。


 何をするんですか?」


 「フフフフ、なあに。ちょっとした仕上げさ。


 先ず、救急箱から消毒液の綿を取り出してくれるかね?


 大量に。だ。」


 その顔は半透明でかつ、邪悪な笑顔で一杯でした。


 私は、言われるがまま、救急箱にしまわれた、アルコールで湿った綿を取り出したのです。


 「これで…………宜しいでしょうか?」


 ひんやりとした感触が手に広がる。


 「ウン、上出来だ。


 では、それを持ったままこちらに来てくれ。」


 そう言って教授が行った先は私のベッドでした。


 「ここでそれを絞ってくれ。」


 正直、とんでもなく意味不明でした。


 わざわざベッドをアルコールで濡らす意味など私には解りませんでした。


 「教授………あのー……」


 私が戸惑っているのを見て教授は察したのか慌てて半透明の手の平を胸の前でぶんぶんと振り始めた。


 「あー…イヤイヤイヤ!違う違う違う!


 勘違いしないでくれ。


 別に君のベッドをアルコールまみれにしろとは言っていない。


 私が指差しているのはここ。ベッドの下だ。」


 そう言って教授はベッドの中、というか、ベッドを透過して消えていった。


 「あの………教授、一体何をなさる気なんですか?」


 手に濡れた綿を持ちながらベッドの下に潜り込んでいった。


 「ここさ。


 ここの隙間にそれを絞って流し入れるんだ。」


 ベッドを透過しながら教授は指を指した。


 床の木材の隙間。


 他の場所よりも少し大きな隙間を示した。


 「えぇ………と………………一体何を?」


 困惑しか無い。


 何故、こんな所にそんな事を?


 「良いから良いから。


 やれば解るさ。」


 邪悪な笑みを浮かべてそう言った。


 「………………………」


 とんでもない事が起こりそうなのは解る。


 下の階にはコションさ……ミス=コションが居る。


 そこにこんなものを流し入れて良い事が怒るとは思えない。






 ポタポタポタポタポタポタ……………






 綿を絞ってアルコールを流し入れた。


 今更何かを言われて何になるというのだ。


 最早あの人は私が息をしていても私に危害を加えて来る。


 ならば、最早天井から何かを流し入れた所で何が変わるわけでも無い。


 それならいっそ、教授の一見意味の解らない助言に従うのも良いだろう!








 「モー!リー!アー!ティー!ー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」








 階下から怒声が響いて来た。


 「教授………あの…………」


 「あぁ、有難う。丁度良い量だ・・・・・・。


さぁ、そこから出ると良い。」


 教授のやることが解らない。


 一体何をしたのだろうか?


 何の意味が有ってあんなことをしたのだろうか?










 そんな風に思いながらベッドから出ると、




「何なのよこれぇ!!」








廊下にミス=コションの声が響いた。




「フフーン、では、行って見ようか?




あぁ、私が替わろう。




先ず、




『基本その1:挙動不審はあらゆる完全犯罪を台無しにするから絶対にしてはならない。』だ。




今回は初回講義。




見ていたまえ。」






 そう言って教授は私に憑りついた。










ボオッ!!






 立ち上がり、窓へと向かい、手に持った綿に魔法で火を付けて灰にしていく。






ガチャン






 窓を開け、






「ふぅーっ!




では、行こうか。」








 燃え残った灰を空へと吹き飛ばし、








ガチャン








カチッ












 部屋の外に出て行ったのだ。










 そうして教授が私の代わりに廊下でミス=コションとミス=フィアレディーを相手に大立ち回りを演じ、今に至る。


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