第64話 弓道部ラスト―合宿
「もうダメ、私生きていけない。終わりよ!」
「諦めたら駄目だよ!」
「だって……もう時間がないわ。無理よ!」
私はある
少し前から、あ、何かおかしいな、とは思っていたのだけど……。
その病の名は『はやけ』。
全国的にそう呼ぶのか、私達の地域だけかはわからないけど弓道をやっている人なら、ほぼ知っているやっかいな病。
はやけは、
もちろん、ー命に別状はなく体は健康なままだけど、弓道においては致命的だ。
狙いがつけば矢を離すことの何が悪いのかと思うだろうが、弓道ではそうはいかない。
弓道は『アンタいつまで狙っとんねん』というくらい、会をじっくりすることになっている。それなのに、離したくて離したくて保っていられない。
しかもはやけになると、射形が崩れるし心も乱れて的に
さらに今日は
「友香ちゃん、この合宿で三年生の目標は一年生全員を的前に立たせること(的に向かって一連の動作で矢を離すようにできること)だから、自分のことはこの際置いといて指導に回って。」
「けんちゃん、ごめん。」
道場の外の巻き藁(台に米俵のような藁オンリーの俵を載せて、飛距離無しで射る練習をする道具)の所でしょんぼりしていると、一年生のマーガレットやキャサリンやエリザベス達が声を掛けてくれる。
「先輩、私達と一緒に頑張りましょう。」
「もう少し、軽い弓にしてみたらどうですか?私の弓、使ってみます?」
一年生と一緒に、ああでもない、こうでもない、と考え考えいろいろやってみつつ一年生にもアドバイスする。
私がこんな感じで頑張っていたので、全員サボることなく黙々と練習する。
いつもはすぐに休憩したがるエリザベスですら真剣だ。
「加藤君と野田君は、巻き藁はもうとっくに合格してるでしょ。友香の心配はいいからはやく道場に入って。」
「「はい。ミカリン先輩。」」
「サマンサとエリザベスもいわね。合格ね。」
「スーザンと石田君もオッケーよ。今年は全員合格するの早かったわね。」
私が回復する気配は全くなかったけど、一年生はどんどん上達していくのがうれしい。
「一年生が言われたことだけじゃなくていろいろ考えて行動できるようになったのは、友香ちゃんのおかげだよ。」
「弓道は一旦お休みして、受験が終わったら大学でやればいいよ。休んでいる間にはやけが治っているかもしれないしね。」
「けんちゃん、甲斐君、ありがとう。」
甲斐君の言う通り一旦離れてまた戻ってくるのもありだね。
こうして私の部活は不完全燃焼で終わった…。
でも、このままでは私の弓道人生は終わらない。
必ずリベンジするわ――。
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