第60話 花火大会前日

「ねえ、優斗、アイシャドーはこれでどうかなあ。」


「姉ちゃん、何でも一人で解決しようとしないで問題を誰かに相談するのはいいことだと思うよ。でも相談する相手を間違えたらだめだよ。化粧のことなんか弟に相談してどうしようっていうのさ。困るよ。」


「お母さんは化粧はしない方がいいって。で、男子としてはどうなのかなって。」


「いつも化粧し慣れてないのに突然化粧してもうまくできないんじゃないの。明日は何もしない方がいいと思うよ。どうせ汗かいて化粧が崩れてみっともなくなる

 だけだよ。」


「……そうだね。慣れないことして塗りすぎるより、明日はやっぱり素顔で行こう。私、顔から汗かきやすいし。」


 そのかわりに美容院で髪をカットして、ついでに可愛く編み込んでもらおう。

 ゆるふわっていうの。

 一年生の時にショートヘアにしたけど最近また伸ばし始めて、今は肩より長くなってるから。


「化粧より、姉ちゃん首のとこ蚊に刺されてるよ。赤くなってる。」


「これ蚊じゃなくてダニだと思う。すっごくかゆいもん。布団干さないと。」


「だいぶ掻いただろ、少し血が出てるよ。絆創膏はったら?」


「うん、そうする。」


 明日の花火大会、浴衣は同じやつだけど、サンダルはやめて下駄と可愛い巾着を買ってもらった。

 もう弓道部の騒ぎに巻き込まれるのは嫌だからスタートからあきらと一緒に行くことにした。

 よし、今日の午後と明日の午前中は勉強して昼から美容院に行こう。

 準備は万全、明日は完璧な花火デートにしなくては。

 邪魔するやつは谷底……いや、這い上がってこられては困る、樽に詰めて海流の速いとこに放り込んでやるから。

 二度と戻ってこられないようにね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る