第59話 Sーセミー
「母さん、網戸が少し開いてるよ!セミが入ってきたらどうするんだよ!」
七月に入りS―セミ―が出てくる季節は、僕にとって普段より恐怖がプラスされる。GとS、どちらがより嫌いかと言われても、選べないくらい両方とも苦手だ。 Sのあの、死んだふりをしていきなりビビビッと動く攻撃には、ひと夏に何回も心を震えさせられる。
中学のときは教室の窓のすぐそばに大きな木があって、夏になるとSが必ずとまっていて生きた心地がしなかった。窓を閉めたくても冷房が入るまでは開けておかないと、クラスメートに僕のS嫌いがばれてしまう。
僕は必ず虫がつかめるクラスメートと仲良くするようにしていたくらいだ。
もちろん何かあった時に助けてもらえるように。
そう、アウトドアは苦手。
「ごめんなさいね、啓。洗濯物を干してたら…。あら、庭にいるあのネコ、そらまるちゃんじゃないの?」
「えっそらまる?」
そらまるは隣の家のネコで、僕が中学の時にもらわれてきた白いフカフカの毛並みのとっても可愛いやつだ。
とても
だけど悲しいことに一昨年くらいに外出先で怪我をしてからは、外に出してもらえなくなり室内飼いになってしまった。
そらまるをナデナデしたいがためにお裾分けや回覧板など、隣家に行く用事は全て僕がやることにしている。
「そらまる、脱走したのかな。つかまえてお隣りへ届けないと。」
Sを警戒しつつ、しかしニンマリしながら僕はサンダルで庭に出る。
久しぶりにナデナデしよう。
肉球も触りたいし。
「そらまる~~~隣のお兄ちゃんだよ~~~こっちにおいで~~~。」
卓球部の後輩たちには絶対に見られたくない姿だ。
そらまるは僕に気づいてトコトコ寄ってくる。可愛い奴め。
「よしよし、覚えていていてくれたんだね。賢いな…ん、?そらまる、何を口にくわえているんだい。」
そらまるは口に何やら黒っぽいものをくわえていて、それがちょっと動いてい……る。
もしや…S!
全身に寒気がする。呼吸も乱れる…。
「ギャー、こっちに来るなー、助けてー!」
そらまるは、獲物を僕にプレゼントしようとしているのか、得意げに寄ってくる。
「そらまる、ありがとうね。すごいすごい。でもそれ、要らないから口から放しなさい。」
「啓、そらまるちゃんを捕まえないいと。このまま遠くまで外出したら、危ない目に遭うわ!」
「それより今、息子が危ない目に遭ってるだろ!」
「セミくらい、大したことないわよ。」
母さんが家の中から網戸越しに応援してくれる。
そらまるの口から、ザリッと音がして背筋が凍る。
「わぁ~~~そらまる!Sを放しなさいって!くわえたまま、近寄らないで!」
大騒ぎの後、Sを放したそらまるを捕まえ、なんとか隣家に届けた。
友香、なんでこんな大ピンチの時そばにいてくれないんだよ。
ちょっと泣いちゃったよ。
ああ、そらまるをナデナデするの忘れてた――。
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