第54話 君にレースのハンカチを
「金城先輩、短い間でしたがありがとうございました。引退してもたまには練習に来てください。それからこれ、もらってください。」
後輩の勇一が差し出したのはフルレースのハンカチで、模様が凝っている。
角の一つは、蝶の模様だ。
「何これ……。いらない。」
「そんな!オレの自信作のハンカチです!先輩の後を継ぐのは、翔太でも、
優斗でもなくオレだと思います。」
「勇一、このハンカチ、レース模様部分が多すぎるんだよ!なんだよ、ガーゼのとこが無いじゃないか。貴族の令嬢とか、お嬢様が持つやつか!これ手を拭けないよ。」
「でも先輩のお母さんは褒めてくれました。短期間でとても上達したって。」
「僕の知らない間にまたうちに来てたのか!まったく……。手芸作品としては優れていると思うよ。でも、これを持っているところは他人に見られたくないな。受け取るだけならいいけど引き出しにしまいっぱなしになるから、誰か他の人にあげろよ。」
「荒木先輩。」
「オレもいらない。」
あんなに金城先輩のハンカチを欲しがっていた部のメンバーが全員目を逸らす。
「悪いことは言わない、ハンカチのことは忘れて卓球を頑張れ。勇一は一年で一番上手いんだから。」
オレは学校の中庭の池の縁にすわって、しょんぼりとハンカチを見つめる。
「ああ、このハンカチ誰も欲しがってくれなくてかわいそう。」
「それ、いらないの?ちょっと見せてよ。」
二年生のクラスバッチを付けたショートボブの女子がハンカチを手に取る。
「えっ?」
「アタシ、家庭科部なの。わーこれ、すごく細かい模様だね。わっ角の所が蝶の模様になってて素敵。」
「そこ、とっても苦労したんだよ。」
「いいなぁ、コレ欲しいわ。」
このハンカチの良さをわかってくれるなんてなんていい人なんだろう。
やっぱりセンスのある人は違う。
「じゃあ貰って。」
「いいの?うれしい、ありがと。アタシ二年の佐竹ミサキよ。」
「オレ、一年の佐々木勇一。」
ミサキさんがハンカチのお礼にって家庭科部で作ったクッキーやケーキを差し入れてくれて、オレがたまにレース編みの新作をプレゼントする。
そんなことが何回かあった。
卓球が一番だったけど、レース編みはオレにとって癒しだった。
「勇一君ってI am (編む) あみもの boy. みたいだね。」
「この世の悪は、このあみもの王子が許さない、この編み針にかけて。」
「うふふ、似てるわー。」
何か月か経ってオレとミサキさんはお付き合いするようになった。
金城大明神様、ありがとうございます。
卓球も恋愛も先輩をお手本にして頑張ります!
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