第47話 金城劇場VS片平

「金城君、一色さん浮気してるわよ。ほらこれ。」


 得意げな片平さんに見せられたスマホには、友香が顔の見えない男子に壁ドン変格活用、電車のドア付近ドンされている写真――。

 変格活用がたまたまの偶然と言えないこともないけど、いいアングルで撮られているな。

 甲斐君から知らされていなかったら動揺していたことだろう。ありがとう、甲斐君、けんちゃん。

 危機管理と情報は大切だ。

 片平さんは、こういうことで友香と僕の仲がごたごたするのを狙ってるんだろうけど、そうはいくか。

 演技は得意じゃないけど、ここでやられるわけにはいかない。金城劇場の舞台に上がろうじゃないか。

 片平さんサイドではベートーベンの運命がBGMで流れているだろうけど、僕は平静を装う。


「片平さん、これ盗撮じゃないか。犯罪だよ。」


「えっ、そ、そうかもしれないけど、いいの?これ。」


「知ってるよ。」


「し、知ってる?」


 片平さんは黙っていれば比較的美人だが(誰と比較しているかは言わない)、どうしてこうわかりやすくねじ曲がっているんだろう。

 たまに彼女の本性を知らないヤツに告られているようだが、そうやって寄ってくる男子には見向きもしないことはわりと知られている。

 そのくせ、誰かの彼氏が良く見えるのか、手を出しては横取りして別れるということを繰り返している迷惑な人だ。


「友香って性格がよくって可愛いから、男子に人気があるらしいんだ。だから片平さんが心配してくれなくてもわかってるから。」


「それでいいの?」


「僕は、友香の中で一番でいられたらそれでいいんだ。たとえ他に気になるやつがいてもね。」


 もちろんそんなわけはないが、僕は哀愁を漂わせながら斜め下に視線を向ける。

 しかし、そうはいっても少しは動揺していて一刻も早く、片平さんにはこの舞台から退場していただきたい。

 もうそろそろ演技が持たないし、百万が一(万が一の百倍のこと)友香と別れることになっても、こんなことをしてくる片平さんだけはごめんだ。

 照明さん、ピンスポットライトをお願いします。


「僕がいなかったら、そいつは友香と幸せになれたかもしれない。でも残念だったね。彼女は既に僕のものなんだ――。」


 不敵な顔でこのセリフを言うと、ガーンという効果音と共に、片平さんは美人が台無しの歪んだ顔で舞台の下手しもてにヨロヨロと退場なさって下さった。

 このセリフ、使えるな。

 しかし、こうしてはいられない。早めに手を打った方がいいだろう。

 悠長に構えていて手遅れになってもいけない。


 僕は友香への誕生日プレゼントを握りしめ、翌日の放課後にS高校に潜入した。

 友香の魅力に気付くとはマニアックなやつめ。

 見る目があることは認めてやろう。

 敬意を表してそいつを谷底に突き落としてコンクリートで埋めて、その上に築城してやる。その城の城主は僕だ。そして領地を治めて名君として君臨してやる。

 この例え、段々と恐ろしいのか何なのか、訳が分からなくなってきているが、僕だってそういう時があるんだ!

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