第45話 四月の電車は無法地帯 行き

 四月の電車は無法地帯だ。今まで電車で通勤、通学したことのない新人ルーキー(自分もだけど)達が参戦してくるためだ。

 乗ったら、ドア付近で立ち止まらないで奥に詰める、ドア付近にいたら、自分が降りる駅じゃなくても一度ホームに降りて、他の人を降りやすくしてあげるなどの配慮が全くできてない。

 段々できるようになっていくが、そうはいっても毎日イライラするのだろう。乗り込んできた怒りのおじさんサラリーマンがグイグイ押すのを、にらみつける女子高校生。だが、世間はおじさんの味方だ。何しろ、女子高校生の背後にはたっぷりした空間が広がっているのだから。


 正直、この満員電車にはウンザリしていた。

 だけど、友香先輩に出会ってからは天国かもしれないとさえ思える。

 だって、合法的に先輩にくっつくことが出来るのだから。

 初めはなるべく体が触らないように気を付けていたのだが、どうあがいても体の全方向に他人がビッチリくっついているのだから、先輩の隣に位置することが出来れば後は流れに身を任せるだけ。

 毎回成功することがなくて残念だが、コツはつかんできた。


 そんな毎日だが、ある日超ラッキーな回が巡ってきた。

 僕が待ち構えていたドアから友香先輩が乗ってきて、僕と目が合うとにこっと笑ってくれた。僕も微笑み返す。

 そして、正面から向き合ったところをナイスな世間の皆様にグイグイ押され、少しだけ斜めに角度を変えたが、もう本当にお互いが半身ずれてくっついてしまった。

 背が同じくらいだから、本当に幸せな位置関係で、多分僕は真っ赤になっていたし、ドキドキが強すぎて先輩をどさくさに紛れて抱きしめてしまわないように必死で耐えた。

 かすかにオレンジの香りがした。ああ、幸せ。

 時が止まればいいのにってこういう時のことだよ。


「すみません先輩、電車の中でくっついちゃって。」


「あんなに混んでるから、しょうがないわね。でも、しばらくは一番前のいてる車両にしようかな。加藤君に悪いし。」


「………(え~全然悪くないのに!残念~)。」


「加藤君が弓道部に入ってから、駅から学校までの話し相手が出来て、楽しいわよ。」


「えっ、うれしいです。ありがとうございます。」


 彼氏がいたっていい、少しずつ僕の方を向いてくれないかな。

 部活を頑張って、彼よりも僕の方がいい男だとアピールしよう。

 先輩の彼氏ってどんな人だろう。

 そんなに美人でもない友香先輩の魅力に気づくなんて、見る目があるというか、マニアックなやつだな。

 出来る人なのか、そうでもなくて、たまたま付き合ってるだけなのか。

 けんちゃん先輩に聞いとけばよかった。だけど負けるもんか。

 他に好きな人が出来たからって別れるカップルって多いし。ふふふ。


「加藤君、なに企んでるの?」


「僕、企んでる顔してました?」


「うーん、知ってる人が企んでる時の顔に似てた。」


「違いますよぉ。先輩のこと、考えてました。」


「え、誰々、二年生?もしかして三年生?」


「(この場合、友香先輩のことに決まってるのに!)内緒です。」


「教えなさいよ~。」


 ニヤニヤしている友香先輩も可愛いな。


 僕の困難な恋の道のりは、まだはじまったばかり。

 この時はどんな困難でもファイト一発で乗り越えられると思っていた。

 けどそれは、甘くはない、乗り越えようとすると痛い目に合う、いばらの道だった……。

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