真夜中の古事記 91話から100話

【登場人物】


氷川航(ひかわわたる)

45歳。最近、ホテルの夜間フロントのアルバイトを始めた。新人なのにおじさん。家族はフルタイムで働く妻と小学1年生の娘がいる。


浅間陽(あさまひなた)

33歳。大学生の頃からホテルのフロントで働いている。趣味はスポーツ観戦。特に欧州サッカー好き。給与は手取りで18万円程度。同棲中の聖と結婚したいが低収入で決断に至らない。


橘聖(たちばなひじり)

29歳。陽の恋人で2人は同棲している。陽の同僚で日勤専属で働いている。


空中天真(そらなかてんま)

少彦名コーヒーのオーナー。


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「氷川さん、古事記って…


日本史の教科書に太字で出てきたヤツですよね?


内容は知りませんが、名前だけは覚えています。


そんなに…


歴史で習うような昔話がそんなに大切なんですか?」


航は少し考えてから話し始めた。


「どこから説明するべきか…


いや、まず浅間さんが古事記にたどり着いたことを嬉しく思います。


『盲亀浮木』って聞いたことありますか?」


「もうきふぼく?」


「もともとは仏教の言葉で、その…人が仏法に出会う難しさを例えているのですが…


海底に住んでいる盲目の亀が、100年に一度だけ海面に浮上します。その時、偶然にもそこに浮いていた木の穴に首が入るという…


そのくらいありえない、そのくらい尊いという意味です」


「亀が…」


陽はその光景をイメージしておかしくなった。航もつられて笑った。


「僕にとっては浅間さんが古事記にたどり着いたのはそのくらい尊いことなんです」


そして航は続けた。


「昨夜もお話しましたが、12年くらい前…つまり僕が浅間さんの年齢の頃、僕は大いに迷走していました」


陽は言った。


「確か、高額セミナーに参加したりしていたんですよね?」


「そうです。なんとか人生を変えたいと必死でした。お金と時間をかけ、必死になって色なことを学び続けました。


自己啓発、速読、心理学、ヒーリング、ヨガ、先物取引にFX…エスカレートした僕は、催眠術や幽体離脱も習いに行きました」


陽はびっくりした。


「え?催眠術?


そんなこと出来るんですか?」


「催眠術はけっこう簡単ですよ。


信頼関係があれば誰でもかかります。


それに…世の中は洗脳だらけですからね。


あ、僕がやりたかったのは人をコントロールすることではなく、自己催眠です。自分の中のプログラムを書き換えてしまえば幸せになれるかもしれない、と考えたのです。


ちなみに、僕は幽体離脱は出来ませんでした」


航は笑った。陽は非現実な言葉がたくさん出てきたので面食らった。航は続けた。


「やがて僕はスピリチュアルに傾倒するようになりました。自己啓発→スピリチュアルに流れるパターンって意外に多いみたいですよ」


「スピリチュアル…


さっきの盲亀浮木の仏法って言葉もですが、ちょっと宗教っぽくて怖いです」


「宗教って本来は怖いものではないんですけどね。多くの人は宗教って聞くと脊髄反応的に警戒しますよね。


宗教は、英語にするとreligion 。語源は「畏れ多いという気持ちを抱くこと」です。


昔から日本人はこういうことをしっかりやってきました。


私たちのご先祖は、毎日、神棚や仏壇に手を合わせてきました。そういう意味で日本人くらい信仰心の強い民族はいないかもしれません」


「そういえば…


龍橋神社の巫女さんが神札(おふだ)がどうとか大麻がどうとか言ってました。


それで聖は興味を持ったようでした」


「素晴らしいことだと思います」


「でも、これだけ科学が進歩した現代に神札を飾るなんて…僕には意味が見出せません。


まあ聖がやる分には止めませんが」


「僕もね、神棚とか仏壇とか…それこそお墓まいりとか。そういうことを一切やらない家庭で育ちました。


今、神棚をお祀りしている家庭なんて少ないでしょうね。


だから、浅間さんの言ってることも分かりますよ」


さらに航は続けた。


「『科学の知』に対して、『神話の知』という言葉があります」


「シンワノチ?」


「はい。例えば浅間さんがインフルエンザにかかったらどうしますか?」


「そりゃまあ、病院に行きますよね、普通」


「じゃあ、昔の人はどうしたでしょうか?」


「うーん、ご飯食べて寝てるしかないですね。重い病だったら死んでしまうかもしれない」


「そうですね、だから昔は『祈る』くらいしか方法がなかったんです。お百度参りって聞いたことあるでしょう?」


「はい、そんなことして治るわけないですけどね。科学の進歩は素晴らしいですね」


「はい、科学はたしかに素晴らしい。科学というのは分けていく学問なんです」


「分けていく?」


「はい、例えば学校のカリキュラム。国語科とか数学科とか、病院なら内科とか外科とか…分けることによって専門性が出てくるわけですね」


「へー、なるほど」


「しかし、僕はそこに弊害があると考えています」


「弊害?


うーん、僕にはなんの問題もないように思えますが???」


「科学は素晴らしいものです。それは間違いありません。


しかし、それと引き換えに僕らは大切なものを失ったのかもしれません。


日蝕を例にあげましょう。太陽が欠けて見えるのは月が太陽に重なるからです。そんなの誰でも知っていますよね。


しかし、古代人が日蝕を見たとき…それは恐ろしかったでしょう」


「確かに…相当の恐怖だったかもしれませんね」


「日蝕は1つの例ですが、この世の現象を解明していくことで、僕らはregion…畏れ多いという気持ちを抱く機会を失っていった。


極端かもしれませんが、例えば神棚や仏壇を軽視し、自ら繋がりを手放していった。結果、多くの人が心に不安を抱くようになった。


僕はそんな風に思っています。


浅間さん、親元を離れ社会人としてスタートした時にものすごい孤独感を感じませんでしたか?」


「それは…感じました。でも、きっと…それはみんな同じでしょう?」


「僕もずっとそうでした。そして、33歳の時、答えを探して迷走を始めたのです。


エスカレートした僕は、やがてスピリチュアルに傾倒していったわけです。笑われるかもしれませんが、なんでもやりましたよ」


航はアイスコーヒーを一口飲んだ。


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「インドのマントラを唱えたり、毎朝瞑想をしたり。能力者がいると聞けば会いに行き、何万円もするヒーリングを受けたり…とにかく必死でした」


陽は目の前にいる人がそんな人生を送ってきたのが不思議だった。


「いったい、氷川さんは何を求めていたのですか?」


「なんでしょうね…最初は好きなことで稼いで幸せに生きたい、同級生のあいつらより上に行きたい…そんな気持ちだったと思うのですが…。


一言で言うと…悟りですね。マントラを唱えたり、瞑想をしたり…そんなことをしていれば、やがて目覚めると言うか…そう言う瞬間が来て幸せになれるんじゃないか、そんな風に思っていました」


「それで、その瞬間は訪れたのですか?」


「いえ、残念ながら」


航は笑った。


「残念ながら悟りを得る前に僕は疲れ切ってしまいました。


ここまでしなければ幸せになれないのならば、もう諦めよう、僕には無理だ…そう思いました。


でもやっぱり、その執着から離れるのは大変でしたよ。なにせ時間もお金も投資してきたわけですから…そこには同じ方向を向いている仲間もいますしね。


でもね、やっぱりそこにいる人たちが僕には幸せそうには見えなかった。


だから僕にはそこから離れる決意が出来たんだと思います。


そして、その時に手に取ったのが…古事記でした」


「その古事記が氷川さんの人生を変えたわけですね?」


陽の期待は高まっていった。


「まぁそう簡単な話ではありませんでしたけど」


航はそう言って笑うと、さらに続けた。


「最初に現代語訳の古事記を買ったんですけど、これがとにかくつまらないんです。


読んでいるとすぐ眠くなる」


陽は肩透かしを食らったような気がした。


「でも、僕にはそこに何かがあるような気がした。


それに、もうスピリチュアルから足を洗って…足を洗ってっておかしな言い方ですけど。


あ、僕は厳密にはスピリチュアルが嫌いなわけではないんですけどね。


とにかく古事記を頑張ってみようと思ったんです。


そして、何度も何度も挫折を繰り返しながら、それでも粘って読み続け、自分なりに古事記を消化出来た時…


パラダイムシフトが起こりました」


「パラダイムシフト?


パラダイムシフトってなんですか」


陽は聞いたことのない言葉 だったので素直に聞いた。


「そうですね…意識が劇的に変化することです」


「それくらい劇的な変化が氷川さんの中で起こったんですね?」


「いえ、もっとこうなんというか…


なーんだ…って感じです」


「え?だってこう、なんというか…もっとドラマティックな感じではなかったんですか?」


陽は期待を裏切られたような気がした。


「全然ドラマティックではありませんでしたね。


僕が何年もかけて探し続けていたものは、こんなに身近に存在していたんです。


灯台下暗しとは、まさにこのことです」


航は続けた。


「僕の思う『悟り』の解釈ですけど、それってこの世界と繋がっているという感覚を味わうことだ思うんですよ。


自分はこの世界の一員なんだという確信というのかな…その確信は生きていく上で圧倒的な力になります。ちょっとやそっとのことではへこたれない力になります。


さっき『科学は分ける学問』と言いましたが、僕にこの世界との深い繋がりを教えてくれたのが古事記だったんです。


あ、古事記って日本の神話ですよ、念のため」


それを聞いた陽は呟いた。


「科学の知に対する神話の知…」


「そうです。分離に対し、繋がりを与えてくれるのが古事記です」


「古事記が繋がりを教えてくれる。


悟りを繋がりというならば、古事記が悟りを与えてくれるということですか?」


「うーん、例えば瞑想などによって得られるいわゆる悟り体験がどういうものか僕にはわかりませんが…


古事記はすべての日本人にもれなく、繋がり…そうだな、『根っこ』を与えてくれるものだと思います」


「根っこですか?」


「はい、古事記を知らずに育った僕らは、根っこのない花瓶の花のようなものです。


根っこがないのに綺麗な花を咲かそうと必死になっても…それは土台無理な話です」


「今、『日本人にもれなく』とおっしゃいましたが、それは僕にも当てはまりますか?」


「はい、もちろん」


航は自信を持って答えた。


「うーん、根っこか…」


陽は目を閉じて左手で瞼をこすった。航は笑って言った。


「浅間さんも眠いでしょ。お互い夜勤明けですもんね」


「氷川さん、僕、とりあえず古事記を読んでみます」


「そうですね、実践するのが一番の近道です。何か僕にできることがあれば、なんでも聞いてください。


今日はここまでにしましょうか」


「氷川さん、ありがとうございました。


氷川さんのお話、聖にも聞かせてあげたいです」


陽は深々と頭を下げた。


「とんでもない。浅間さんから古事記の話題が出るなんて…嬉しいです。ありがとうございます」


「あ、氷川さん、連絡先を交換してもらえませんか?」


「もちろんです」


航は手早くSNSのQRコードをスマホの画面に表示し、陽に差し出した。


「これでいいですか?」


「氷川さん、なんか手慣れてますね」


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連絡先を交換すると、航は伝票を手に持ち、レジに向かった。航を追いかけるように陽も席を立った。


レジには恰幅の良い50代半ばくらいの男性がいた。この店のオーナーだろうか?


「ありがとうございます。お会計、ご一緒でよろしいですか?」


男性は低音のとても良い声を発した。


「はい、一緒で」


「アイスコーヒー、おふたつで1,000円になります」


航が財布を取り出したので、陽は慌てて言った。


「氷川さん、誘ったのは僕ですから。ここは僕が…」


「まさか〜、そういうわけにはいきませんよ」


「いや、でも」


「たしかに僕の1時間分の労働がほぼすべて吹っ飛びますが」


航は笑いながら続けた。


「じゃ、今回は僕が払いますから、次からは割り勘にしましょう」


陽は航から「次」という言葉が聞けたのが嬉しかった。


「は、はい。ではご馳走になります、ありがとうございます」


コーヒー代を払いながら、航は男性に話しかけた。


「これ、ご主人がされるんですか?」


航は掲示板に貼られたA4サイズのフライヤーを指差した。


そこには…


『朗読古事記〜カミクシノカミ〜』


と書かれていた。


航はフライヤーに目を通しながら言った。


「へー、スサノオとクシナダ…オロチ退治ですか」


「さっき古事記のお話されていましたね。実は混ざりたくてウズウズしていました」


男性は笑いながら言った。航は答えた。


「はい。こう見えて古事記の講座なんかもやってるんですよ、細々とですが」


「へー、それは興味深い」


航と男性は楽しそうに語り出した。


(古事記の講座?氷川さん、古事記の先生をやっているのか?)


航はマスターに言った。


「今度、僕の講座を聞いてみてください」


「おお、ぜひぜひ。


ここでやってくださいよ」


「え?いいんですか?嬉しいなぁ。


マスターの朗読の古事記というのも面白そうですね?


朗読で古事記っていう発想が…」


「スサノオがオロチ退治の時に急に策士になるじゃないですか?


あれって不自然だと思うんですよ…


そこで頭に挿されたクシナダが…」


マスターと航の話は盛り上がっていた。


陽は話がちんぷんかんぷんで、ただ黙って聞いていた。


ふとカウンターに目をやると色々なイベントのフライヤーが置かれていた。


「へー、このカフェでいろんなイベントやってるんだな…」


陽はそのうちの一枚を手に取った。ポストカードサイズのそれには、


『古事記のお話会』


と書かれていた。


(講座ってなんと身構えちゃうけど、お話会くらいなら初心者の僕でもついていけるかなぁ???)


航とオーナーの話はまだ続いていた。陽はフライヤーをバッグにしまった。


「私、出身が米子でして…」


「へぇー、西の方は古事記熱が高いですよね。米子だと、出雲大社も近いですね?」


「ええ、向こうにいるときはよくお参りしていました。今でも帰省したときはお参りしますよ」


「お店の名前、オオクニヌシコーヒーにはしなかったんですね」


航は笑った。


「母が美保神社を好きでしてね」


「ああ、なるほど。


僕、スクナヒコナ大好きなんですよー」


そう言ったところで、航は陽の方を見た。


「浅間さん、すみません。つい盛り上がってしまって」


「い、いえ、全然大丈夫です」


「オーナー、名刺交換させていただけますか?」


「もちろんです、喜んで」


航とオーナーは陽の目の前で名刺交換をしていた。


「あの〜…」


陽は2人のやりとりに割って入った。


「?」


「ぼ、僕にも名刺くれませんか?」


航は笑った。


「もちろんです」


航は一枚の名刺を取り出すと、両手でもち丁寧に陽に渡した。航に渡された名刺には『古事記スクール』と書かれていた。


(ス、スクール?


氷川さん、学校やってんのか?)


その時、マスターが話しかけてきた。


「よかったら僕の名刺もどうぞ」


そう語りかけるオーナー声は魅力的だった。


「あ、ありがとうございます」


陽は慌てて受け取った。


名刺には


『ワカン・タンカ村村長 空中天真(そらなかてんま)』


と書かれていた。


(そ、村長!!この人、村長なのか?)


陽は無意識のうちに声のトーンをあげて言った。


「氷川さん、学校経営してるんですか?


そ、空中さん?村長なんですか?


ワカン・タンカ村って、どこの国ですか?空中さん、日本人じゃないんですか?」


陽は空中さんの顔をマジマジと見た。改めて見ると彫りの深い顔をしている気がする。日本人ではないのかもしれない。


空中さんは笑って言った。


「さっきも言いましたけど、米子出身の日本人ですよ」


航はニコニコしながら言った。


「あー、浅間さんは良い人だな。


僕にもそういう時期がありました。肩書きにビビっちゃうんですよね?


でも、あんまり肩書きとか気にしない方がいいです。


古事記スクールっていうのは実際に学校があるわけでなく、いわゆる屋号ってヤツです。


空中さんもそうですよね?」


「ええ。でもちゃんと理念を持ってやってますよ」


「それは僕もです」


陽は早とちりをしたことに気づき顔が熱くなるのを感じた。


「屋号…ですか?


でもお二人とも…その、僕はよくわからないけどフリーランスってヤツですよね?


自分のビジネスを持ってるなんてすごいです」


航は言った。


「凄くないです。


フリーランスって言ってる人の大半はフリーターですよ」


航と空中さんは声を合わせて笑った。


「だって本当にうまく言ってたら、僕だってフロントの夜勤をやってる暇なんかないでしょ?


昨日も言いましたけど…よく知らない人のことなんかすぐに信じちゃダメですよ、肩書きもね」


「浅間さん、まだお時間大丈夫ですか?」


航は陽に確認した。


「は、はい。僕は大丈夫です」


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航はうなづくと空中さんに質問した。


「空中さん、ワカン・タンカ村というのはなんですか?」


空中さんが口を開いた。


「簡単に説明すると…


僕のアニマルメディスンがバッファローでして…」


「ア、アニマルメディスン?」


陽は思わず大きな声を出していた。


「うーん…自分を守護してくれる動物のスピリットのことで、ネイティブアメリカンの思想です。で、僕を守護してくれているのが、バッファローのスピリットなんです」


「は、はぁ…」


陽は気の抜けた返事をした。空中さんは続けた。


「スー族の言い伝えでは、バッファローの国からやってきた少女が、ワカン・タンカの教えを村に伝えるんです。


ワカン・タンカとは「大いなる神秘」というような意味です。スー族ではこのワカン・タンカがすべての創造主である、という考え方があるのです」


航は空中さんのイメージとバッファローがぴったりだと思った。


空中さんは続けた。


「僕の名前の漢字『天真(てんしん)』には、「人が天から授かったものを活かす」という意味があるんです。


そんな場を作りたい、という思いで『ワカン・タンカ村』の構想にいたりました。


架空の村ですが、村人は300人くらいいますよ。


今はこのカフェを、色々な人の表現の場として使ってもらっていますが…でもいつか、本当の村を作りたいですね」


それを聞いた陽は暗い顔になった。


「天から授かったもの…僕にはそんなものありそうにないです」


空中さんはすぐに言った。


「そんなことないですよ。天から授かったというとすごい能力をイメージするかもしれませんが…


僕の場合、若い頃から『声がいい』とよく言われていた。でも「それが何か?」という感じで受け入れてきませんでした。


でも50歳を迎えたタイミングで、こじんまりと朗読会を始めたんです。このカフェで毎月一回、もう5年になります」


航は言った。


「5年も続けられているんですか?


すごいですね、続けるって難しいですから。


それが古事記の朗読会につながるわけですね」


空中さんは笑顔で言った。


「そういうことです」


航はさらに聞いた。


「そのワカン・タンカ村の村人になるにはどうすればいいんですか?」


「簡単ですよ。ホームページがあるので、そこから登録してもらえれば、後日『村人カード』を発送します。あ、登録は無料ですよ」


「へー、面白いですね。ちょっと調べますね」


そういうと航はスマホですぐにワカン・タンカ村を検索した。


「お、あったあった」


そして、素早くスマホを操作すると言った。


「登録させていだきました。カードの色は青にしました」


空中さんは笑って言った。


「ようこそ、ワカン・タンカ村へ」


陽は航の行動の早さに驚いた。


(この人、個人情報とか気にしないのかな…さっき会ったばかりなのに)


空中さんは言った。


「すっかり足止めしてしまって申し訳ありません」


「いえ、最高に楽しかったです。また来ます。


あ、これもいただいていきますね」


航は陽と同じ『古事記のお話会」のフライヤーを手に取った。


陽は丁寧に頭を下げていった。


「空中さん、ありがとうございました。ごちそうさまでした」


「ありがとうございました。またいらしてください」


2人はカフェを出ると並んで歩いた。


「いやー、いいカフェでしたね」


航は上機嫌で言った。


「氷川さん」


「はい?」


「氷川さん、知らない人は信じるなって言ってたのに、あのオーナーは信じるんですか?


村人登録までしちゃって…」


航は笑った。


「信じるというか…完全に素敵な人じゃないですか、空中さん。


浅間さんがお茶に誘ってくれたおかげで良いご縁にめぐまれました。ありがとうございます」


「うーん…」


そんな陽の顔を見て航は言った。


「自分の人生ですから、行くときは行くし行かないときは行かない。


自己責任。それだけのことです」


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駅に着くと航は言った。


「じゃ、僕は歩きなんで」


「浅間さん、ありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました。


また勤務が一緒になる日を楽しみにしています」


陽は改札を通り、エスカレーターに乗り、ホームへ向かった。


振り向くと航の姿はまだそこにあった。


航は陽に向かって手を振った。陽は頭を下げた。

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